第13話_五色交わる

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部屋を出て少し歩き、彼らから聞こえないところまで来ると、(レツ)は息を長く吐き出した。そのままトイレとは逆の方向へ歩き出し、中庭の見える書斎へお邪魔してふすまを閉めた。 話をしている最中、烈は蒼矢(ソウヤ)と目を合わせることができなかった。話も半分くらいしか頭に入って来ず、表情もぎこちなくなっていたように思う。 どうしても視線が、蒼矢の胸元に注がれてしまった。あの時見えた赤い痣の映像が、烈の脳裏に強く焼きついていた。 あの痣を思い出すと、色んな感情が湧きあがってくる。 蒼矢を犯した[侵略者]への、怒り。 そうさせてしまった自分の手落ちへの、悔しさ。 そして…一瞬でも彼を失いそうになった事実への、恐怖。 葉月(ハヅキ)にはフォローされたが、自分がついていれば、もしくは無理にでも学校へ行かせなければ、こうならなかったかもしれない。…そう考えずにはいられなかった。何よりも、昨日…寝過ごして、朝通学する蒼矢をつかまえられなかったことには殊更後悔し、強く自分を責め続けていた。 「…烈」 「!!」 ふいに後ろから小さく声をかけられる。 いつの間にか室内に蒼矢が入ってきていた。烈は後ろを振り返れない。 蒼矢はふすまを元通り閉め、烈へ歩み寄った。 「様子がおかしかったから…気になって」 「蒼矢…っ …悪い」 「…? 何が?」 「だからっ…その」 烈は振り返り、蒼矢へ視線を合わす。が、すぐに視線が…蒼矢の顔のすぐ下あたりに逸れていく。 「…悪い」 「…!」 烈の視線を追っていた蒼矢はすぐに察し、首筋に手を当てた。 …見られてたんだ。 葉月はおおむね把握しているだろうにしても、助け出した影斗をはじめ他のセイバーが、どこからどこまで自分の身体を見ているか、知りようもなかった。願わくば、何も見ていないで欲しいと思っていたが… 烈はうつむいたまま、言葉を絞り出す。 「…俺、お前にどんな顔していいか、とか…、なんて声掛ければいいのかとか、わからなくなっちまって…」 「烈…」 「…ふざけんなって話だよな! 辛いのはお前の方なのに…」 「……」 やっぱり目を合わせられない烈の苦しそうな表情を、蒼矢はぼんやりと眺めていた。 "辛い"という言葉が自分の中に素直に入っていき、記憶の隅に押し隠していた一昨日のことが頭に駆け巡る。でも、それを拒絶する感情は噴き出してこなかった。代わりに、背後から烈が寄り添っているような感覚が、外側から記憶の上に注がれていった。 「あーっ、くそっ!」 「!?」 突然、烈は両手で自分の両頬を力強く引っぱたいた。良い音が鳴り、少し呆けていた蒼矢の肩がビクッと上がる。 烈はその蒼矢の両肩を掴まえた。 「…情けなくてごめん。でも、本当に怖かったんだ。…(アキラ)と変わんねーな」 少し笑うと、そのまま引き寄せ、手を背中に回した。 「…っ、烈…」 腕に力が込められ、蒼矢は背中の痛みに少し声をあげたが、すぐに彼の身体が微かに震えていることに気付く。 葉月の気遣い、陽の涙、影斗(エイト)の叱責。そして…今目の前で、自分への思いを身体全体でさらけ出してくる、幼馴染。 ――お前の敵は、俺たちの敵でもあるんだからな―― …なんとなく今やっと、昨日の影斗の言葉をきちんと理解できた気がした。 「……」 蒼矢はそのまま身を任せて目を閉じ、烈の大きな背中に手を伸ばすと、優しくさすった。 ふすま越しに、影斗は二人の会話を聞いていた。 静かにその場を離れ、何事も無かったように居間へ向かう。
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