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烈と蒼矢が居間に戻ると、影斗が増えていた。隣で葉月がニコニコしている。
「さっき来たんだよ。やっと全員揃ったねぇ」
「何でお前はそんなにも嬉しそうなんだよ…」
「皆で揃ってお昼ご飯食べれるからさ。はい、動ける人は手伝って。今日はお蕎麦だよ~」
「…野郎五人で食っても美味くねぇよ」
影斗はそう文句垂れつつも、鼻歌交じりでキッチンへ消えていく葉月を追った。
その後を、蒼矢が追う。
「――影斗先輩」
「んあ?」
腕を掴まれたので軽く振り向くと、蒼矢は幾分か緊張したような面持ちで、影斗を見上げていた。
「…昨日…すみませんでした。俺、態度悪くて」
そのまっすぐな表情に一瞬呆けてしまったが、影斗はすぐに切り替え、意地悪そうに笑う。
「何だよ急に。可愛げねぇのがお前の魅力だろ?」
「今は茶化さないで下さい。…もっと自己管理に気をつけます。ご心配をおかけしました」
「…」
そう言って頭を下げる蒼矢を、表情を素に戻した影斗は黙ったまま見つめ…その頭に優しく手を置いた。
「…わかったんならそれでいいよ。俺も言い過ぎたな、悪かった」
「そんなことないです。ああいうことを言ってくれるのは…先輩だけですから」
目を伏せ、少し顔を紅潮させて言う蒼矢に、影斗は自分の中に湧き上がる感情を抑えることができなかった。
「…お前さ、もっと頼れよ。俺を」
「…? 結構頼ってるつもりなんですけど…葉月さんか先輩くらいしか、そういう人いませんし」
「じゃなくてさぁ…」
きょとんとした顔をする彼を見て…影斗は息をつき、自分の内を押しとどめることにする。
自分の胸に引き寄せたい気持ちを紛らわすように、手を乗せた頭を軽くポンポンと叩いた。
「…もういーわ」
「? せんぱ…」
「おら、病人なんだから居間戻ってろ。代わりにあいつらどっちか来させて」
「…はい」
なんとなく納得していないような態度で戻る蒼矢の後ろ姿を影斗は見送り、キッチンへ向かった。
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