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居間で待っている三人には、なんとなく重い空気が漂っていた。
「蒼兄…まだ具合悪いのかな。さっきだって、蕎麦全然食ってなかったし」
寝っ転がってスマホをいじっている陽が、小さくつぶやいた。
「良くはねぇだろ。だからってのもあって葉月さんちにいるんだろ?」
「違くて! 病院に連れてった方がいいんじゃねぇかって俺は言いてーんだよ!」
烈の冷めた言い草に、陽はがばっと起き上がり、がなり返す。
「どこが悪いのかみんな全然教えてくれねーし、…そもそも、何でああなったのかも俺知らねーし…」
口をへの字に曲げて、陽はまた目を潤ませる。
蒼矢以外の四人のうち、陽だけは事の次第をほとんど把握していなかった。陽の性格や気持ちを考えて、あえて伝えていなかったのだが、隠しておくにもそろそろ限界が感じられた。
一旦沈黙が降りた中、影斗がぼそりと口を開く。
「…病院に行ったら、どんな診断が出るかわからねぇんだよ」
「?? どういうこと?」
「[奴ら]にな、得体のしれない薬を飲まされたっぽいんだってさ」
陽へ向け淡々と説明し始める影斗に、烈はぎょっとして顔をあげる。
「薬…!?」
「そー。成分がわからねぇ。血液検査でもできればわかるかもしれねぇけど、俺達以外の人間に判っていい内容じゃないかもしれねぇ。…だからだよ」
「そう…なのか」
きわどいところで絶妙に止めて、影斗は陽を納得させた。
烈は密かに、さすが影斗だと感心した。
次の瞬間、階上から衝撃音が聞こえ天井が軋み、ついで各々の持つ起動装置が光り始める。
三人は一斉に立ち上がり、寝室へと全力で駆けだした。
寝室に着くと、落ち着いた雰囲気の室内が一変していた。さっきの轟音の原因だろう、破壊された家具の前に葉月が倒れていて、部屋奥のベッドの上で、蒼矢が見知らぬ大男に首を掴まれ、壁に押さえつけられていた。
[侵略者・蔓]が振り返った。
「『ガイアセイバーズ』か。残りの三体揃い踏みか?」
部屋に入った三人は光景を目にしたまま固まり、陽は無意識に鉱石へ手をかける。
「蒼…兄」
「陽、待て!!」
『起動装置』を握ろうとする陽を、烈が鋭く制する。その隣で、影斗が冷や汗を流しながらつぶやいた。
「…まじかよ」
[蔓]の手には、蒼矢から奪った起動装置が握られていた。宿主から離れたアズライト鉱石は、輝きを失ったまま静かに目の前の[侵略者]の手中に収まっていた。
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