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第15話_心無い戯れ
「……!」
蒼矢は意識を取り戻した。
薄く目を開けると、暗転する前まで居た葉月の部屋ではない別の景色が映し出される。
薄暗く、無音な空間。
横たわる身体に、冷たい床の感覚が伝わってくる。
獣臭が漂い、まとわりつくような湿気で空気は重苦しく淀んでいる。
「……」
ゆっくりと身体を起こして周囲を見回してみると、置かれた空間は割と広めだが四方を囲われていて、三方は一面コンクリートのような壁になっており、残りの薄暗い明かりが差し込む方には鉄格子がはまっていた。
着衣は意識を失う前と一緒のようだったが上半身は裸で、両腕は背面でコの字にまとめられ、肘から下が括られていた。
…ここは、[異界]だ。
まだ少しおぼろげな面持ちでいた蒼矢だったが、直感でそう感じた。
…気を失ってから、どれだけ時間が経っているんだろう。
…これから自分はここで、どうなってしまうんだろう。
ぼんやりと思考を巡らせる中、一つだけはっきりと理解し、覚悟していることがあった。
…きっともう、元の世界には帰れない。
「起きたか」
「!!」
鉄格子の一部が扉のようにずれ、[蔓]が入ってきた。
「なかなか目覚めんから、何か刺激をやろうかと思いかけていたが、不要になったな」
一歩ずつゆっくり近寄ってくる[蔓]から距離を保つように、蒼矢は身をよじって後ずさる。
「…来るな…っ」
「眠っている間に弄ろうかとも考えたが、やはり反応がないとつまらんからな」
「来るな!!」
鋭く叫ぶ蒼矢の片足を掴まえ、引きずり寄せる。そのまま両脚を束ねて肩に背負うと、隅に置いてあった寝台へ放り投げた。
「っう…」
硬く、ほとんど弾みの効かないマットレスにうつ伏せに叩きつけられ、蒼矢の表情が苦痛に歪む。
すぐに[蔓]が覆い被さり、薄明かりに浮かび上がる蒼矢の裸体を観察する。そのしなやかな曲線に点々と残る、拳大の青痣を撫ぜた。
「成程、人間の身体は異物への影響を受けやすいようだが、傷みやすく元にも戻りにくいんだな」
そうつぶやくと、痣を指で強めに押した。
「っ! あっく…!」
鈍い痛みに、蒼矢の背中が反る。手は背面を動き回り、痣の一つひとつを確かめるように指先で刺激を与えていく。
痛みをこらえ、呼吸を乱す蒼矢に[蔓]は背後から密着し、その耳元に囁いた。
「ここは[俺の領域]だ。今までと同じ力加減だと、お前を壊してしまうかもしれない。が、そうしたくはない。…なるべく痛まないようにしてやろう」
そう言うと、[蔓]は蒼矢をひっくり返し、全身で身体に絡みついた。
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