芽吹く蝶

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 しゃがんだ膝の上に両腕を重ね、そこに顔をうずめる。  私は何と声をかけたものか迷った。  意を決して話しかけようとした時、景文くんは顔を上げる。  そしてもう一度、僕はこの中に入ってみたい、と言った。 「この中って、蛹?」  景文くんと蛹を見比べる。  蛹の中に入りたいとは、どういう意味だろう。  彼は蛹を食い入るように見つめている。 「うん。伽藍堂な家は寒々しいから。この小さい蛹の中は液で満たされているんだろ? ここに入れば、きっと寒々しさも薄れると思うんだ」  景文くんは祈るように目を閉じた後、ふと私に顔を向けてきた。 「変な話をしてしまって、ごめん。つまらなかったでしょ」  居心地悪そうにする彼に笑って首を振る。 「んーん。景文くんと話したかったから」 「僕と?」 「うん。せっかくの従兄妹なんだから、仲良くなりたいと思って」  言って膝にあごを乗せる。 「それに、別につまらなくなんてなかったよ」  景文くんが何事か言おうとした時、縁側から顔を出した母が私たちを呼んだ。 「二人ともー、お昼ができたわよー」  はーい、と大声で返事をする。景文くんを窺うと、彼も振り返り縁側を見ていた。  彼は家に戻ろうと立ち上がりかけ、もう一度蛹に目をやる。その時、彼が横を向いたのでうなじが見えた。  ハッと息を飲む。  また、彼のうなじに蛹があったからだ。  景文くんはすぐ立ち上がってしまったので、再度確認することはできなかった。  でも、あれは確かに……蛹だった。
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