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「未来のかけら きっともう持ってるよ」
葛上くんが言った言葉に、私の心臓は爆発しそうになった。それは私が小学校六年生の頃に書いた絵本の1ページ。失敗ばかりでどうせぼくなんかといじける熊を小さなウサギが励ますワンシーン。
あれは自分に向けて書いた言葉のつもりだったけれど――
「雨谷が書いた絵本、好きなんだ。今悪いことばっかりでも、希望はあるのかなって思えるから」
優しい声に胸がつまる。好きなバスケットボールが思うようにできなくて、仲間とも離れないといけないのに笑ってくれる葛上くん。
「なあ雨谷、俺にも『未来のかけら』あるかな?」
「うん……もちろんだよ」
泣きそうになりながら、でも私が泣いてどうするんだと涙を飲みこみながら答えた。足早に流れる雲のすき間から太陽が顔をのぞかせる。
「よかった、俺、向こうでがんばるわ」
「ずっと……応援してるね」
「あ、その笑った顔好き」
そう言って私の手を取ると小雨の中を歩き出した。雨粒は陽光できらめいて淡い虹になる。濡れた緑のTシャツと大きな肩を見上げて私もつぶやく。ずっと好きでした、でも言えなかったな。
「ん? なんて?」
「なんでもない」
笑って答えると「ほんとは弁当持ってただろ?」と葛上くんは言った。
「気づいてたの?」
「荷物持とうとしたときチラッと見えた。雨谷と一緒に歩きたかったから言わなかったけど」
いたずらっぽく言って私の腕を引いた。サンダルで水たまりを踏んで横断歩道を渡る。
「明日は俺と弁当食ってくれる?」
「……うん!」
大きな手を握り返すと、葛上くんはにっかりと笑った。栗色の髪についた水滴が朝露みたいにはじけてきらめいた。
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