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聞くはずのない言葉
どうする……? もう少し、ギリギリまで待てるか?
『間もなく開演です。ロビーにおいでのお客様は、お早めにお席にお着きください……』
アナウンスが流れると同時に、手の中のスマートフォンの表示時間が17:55に切り替わる。
劇場ロビーにもう人はほとんどいなくて、そのことが俺を焦らせた。
開演までもう5分しかない。
スマホの電源ボタンを指でなでる。
待つべき……だよな? 上手く進めばデビュー作が決まる案件なんだし、さっき確かに言われた。
『今日中に必ずまた電話する。もし繋がらなかったら……』
話はなしになると。そう言われた。
大事な観劇前にそれはないだろ、と思った。でも、新人の俺に反論やわがままを通せる力はない。
客席の入口前に、上演時間と今日の出演者を案内した用紙が貼ってある。そこに書かれた名前を見て、もしあの人だったらどうだろう、なんて想像してみる。事務所の人も一方的にならず、彼の言うことも聞いて、応えているだろうか。
今日の公演で、彼はどんな風に魅せるだろうか。
観たい。すごく。
やっぱり……
指に力を入れた瞬間、ふとスマホが振動した。
来たか、と思ってバッと画面を見下ろす。
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