儀式

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  「こんなお揃いのスーツ持ってたっけ?」 「……俺が買った。そうだ、後で比べようか。ズボン並べれば長さは一目瞭然だぞ」 「今日の蓮は意地悪だ」  そうは言っても、蓮が自分を気遣って歩調を合わせてくれているのが分かる。 「30円が欲しんだよ」 「なんでそんなの思いついたの?」 「貯金するんだ、それ」 「30円ずつ?」 「それで来年旅行に行こう」 「30円ずつ貯めて? 無理だよ!」 「だからうんと不貞腐れてくれ。旅行、行きたいだろ? 俺はお前と行きたい。なら頑張って貯めないと」  途中から蓮が笑ってるから本気じゃないと分かってはいる。 (蓮、今日はしゃいでる?)  蓮は今日を楽しもうと決めていた。 (忘れたならいいさ。もう一度、いや何度でもお前に結婚を申し込むから)  ちょっと細い道に入る。 「あれが蓮の言ってた教会? 小さいんだね」 「なんだ、文句か?」 「文句って…… ね、何しに行くの?」 「大事なこと」 「どんな?」 「内緒」  ほんのちょっと間が空いた。 「30円」  お年寄りや子どもを考えているのか、入り口の階段は低くて幅が広くなっていた。 「大丈夫か? 腹、痛くないか?」 「大丈夫だよ」  蓮の手に掴まって上がっていく。本当は手を握らなくても階段を上がれる。けれど夕べは1人だった…… そう思うから蓮に触れていたい。  両開きのドアは木製で古めかしい。微かなきしむ音を出してドアが開いた。中にはそれほど人がおらず、入った2人に目をやる者もいない。 「こっちだ」  後ろから2列目の右側。右上を見上げると落ち着いたステンドグラスがあった。 「どうした?」 「教会に入ったの初めてだよ! 静かできれいだね」 「そうだな」  こみ上げてくる思いに押し潰されそうで蓮はそれ以上の返事が出来ない。それきり何も言わない蓮にジェイは思い切ってもう一度聞いた。 「蓮…… ここになにしに来たの?」 「ここに入って…… なにか感じたか?」  蓮が真剣に聞いているのだと分かる。周りを見る。しばらく考えた。目を閉じて自分の記憶を遡る。 「さっき。喫茶店で教会って聞いたときね、ドキッとしたんだ…… ドキッ? ……違う、なにか…… 熱が出そうな時みたいな」  隣からくつくつと笑う声がする。 「なに?」 「お前さ。つくづくロマンティックなヤツじゃないなと思って。こういう時にやらかすのはさすがジェイだよ」 「どういう意味?」 「『熱が出そうな時』…… 教会じゃなかったらきっと俺は大爆笑してる」  そう言いながら涙が落ちそうになった。 (感じてくれた…… 感じてくれたんだ、何かを) 愛しくて愛しくて。そんなジェイを見つめた。 「30円」  
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