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(腹が…… 腹が痛い)
水で膝をしっかり冷やした時、腹にも何度か浴びてしまった。多分その冷えによるものだ。だがせっかく話が盛り上がっている。ご両親も何度も笑い声を上げてくれた。今は会社でのこと、主に花とジェイの話になっている。
「それでね、そのおっかなくてきれいな花さんって言う人と、あの店長さんが兄弟みたいに仲がいいの! 花さんは怒ってる時でも店長さんが話しかけると大人しくなって笑顔まで浮かべちゃうのよ。ね、健ちゃん」
「ええ。そうなんです。花…… 宗田部長補佐って会社ではすごく恐れられている人で、店長のジェイ先輩はずっとその人の補佐をしてきたんです。『こいつ以外に俺の補佐は要らない』っていつも言われてました」
「なのに天然さんなのね? あの時はよく分からなかったわ。マスターがきりっとした方だっていう方が印象的で」
笑顔で答えているが、腹はぎゅるぎゅると変な動きを始めていた。
チャイムが鳴った。
「お寿司屋さんだわ」
(どうしよう!)
この状態で生もの…… 凛子ちゃんも玄関に行って、お母さんとお寿司を運んで来た。
お母さんがお茶を取りに行くときにお父さんが「お母さん、ビールも」と言う。
「はいはい。石尾さん、ビールは飲めるのかしら?」
それは避けたい。のっびきならない羽目に陥るのが分かっている。だが断ろうとするより早く凛子ちゃんが答えてしまう。
「健ちゃん、意外とお酒強いのよ」
「じゃ、よく冷えたビールで乾杯しよう」
「はい」
そう返事するしかない……
(巨大な食虫植物が口を開けて俺が落ちるのを待ってる……)
必死だった。嬉しそうに乾杯した。お父さんが半分ほど一気に飲んだから自分も同じように。
「健ちゃん、暖房暑い?」
汗が流れるのを見て凛子ちゃんが温度を下げた。目の前には大トロだのウニだの、普段食べないような贅沢な寿司がある。
それをビールを飲みながらいただく。腸が奇妙な動きを知らせてくる、(これから大腸に向かうぞ)と。痛みは強くなるばかり。
(気を抜いたらやられる!)
「おい、日本酒にしよう! 健ちゃんはイケる口だというからな」
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