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アルコールが大好きだと言うアルコールに弱いお父さんから『健ちゃん』という言葉が出た。本当なら天にも昇る心地のはず。それが今や断崖絶壁だ。
大腸に波が押し寄せる。尻に力をこめぎゅっと出口を閉ざす。脂汗が滴る。その頃になってやっと凛子ちゃんは石尾の異変に気がついた。凛子ちゃんにしても嬉しかったのだ、健ちゃんが両親に認められたのが。だからずっとはしゃいでいた。
「健ちゃん、どうしたの? 調子悪い?」
「あ、あの」
「あら、そう言えば顔色が」
(もうだめ、限界っ)
「すみませんっ、トイレ貸してくださいっ」
凛子ちゃんが案内してくれて、ソッコー便座に腰を下ろした。お茶トラブルの次に堰き止めていた下痢トラブル。
(ああ……)
石尾に幸せな笑顔が浮かんで来た。
やっと治まって流し、トイレのドアを開けた。そこにお父さんが立っていた……
「ビールはトイレが近くなって困るね」
(え、今入るの?)
それはイヤだ! 換気扇をつけたとしても今は困る。
「本当ですね、ビールってそういうとこが困りますね」
抗ってみる、少しでも間を空けたい。
「健ちゃん、済まんがちょっとどいてくれないか?)
もうどくしかない。何度目かのいたたまれない思い。このまま居間に戻るべきか、それとも……
お父さんが出てくるのは早かった。
「……換気扇のスイッチはここだよ」
教えてくれたお父さんにすぐに頭を下げた。
「すみません! さっきシャワーの水で冷えてしまって!」
「あ、申し訳なかった!」
トイレの前でまた謝り合う。
「なにしてるの?」
「健ちゃん、大丈夫ーー?」
「これは2人の間で収めよう。『お父さんのせいで』って凛子にもう怒られたくないんだ」
「ありがとうございます! 俺もその方が助かります!」
共通の秘密を抱えた2人は、普通とちょっと違った絆で結ばれた。
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