緊張①

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   アルコールが大好きだと言うアルコールに弱いお父さんから『健ちゃん』という言葉が出た。本当なら天にも昇る心地のはず。それが今や断崖絶壁だ。  大腸に波が押し寄せる。尻に力をこめぎゅっと出口を閉ざす。脂汗が滴る。その頃になってやっと凛子ちゃんは石尾の異変に気がついた。凛子ちゃんにしても嬉しかったのだ、健ちゃんが両親に認められたのが。だからずっとはしゃいでいた。 「健ちゃん、どうしたの? 調子悪い?」 「あ、あの」 「あら、そう言えば顔色が」 (もうだめ、限界っ) 「すみませんっ、トイレ貸してくださいっ」  凛子ちゃんが案内してくれて、ソッコー便座に腰を下ろした。お茶トラブルの次に堰き止めていた下痢トラブル。 (ああ……) 石尾に幸せな笑顔が浮かんで来た。  やっと治まって流し、トイレのドアを開けた。そこにお父さんが立っていた…… 「ビールはトイレが近くなって困るね」 (え、今入るの?) それはイヤだ! 換気扇をつけたとしても今は困る。 「本当ですね、ビールってそういうとこが困りますね」  抗ってみる、少しでも間を空けたい。 「健ちゃん、済まんがちょっとどいてくれないか?)  もうどくしかない。何度目かのいたたまれない思い。このまま居間に戻るべきか、それとも……  お父さんが出てくるのは早かった。 「……換気扇のスイッチはここだよ」  教えてくれたお父さんにすぐに頭を下げた。 「すみません! さっきシャワーの水で冷えてしまって!」 「あ、申し訳なかった!」  トイレの前でまた謝り合う。 「なにしてるの?」 「健ちゃん、大丈夫ーー?」 「これは2人の間で収めよう。『お父さんのせいで』って凛子にもう怒られたくないんだ」 「ありがとうございます! 俺もその方が助かります!」  共通の秘密を抱えた2人は、普通とちょっと違った絆で結ばれた。  
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