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お酒も入ってすっかり意気投合した2人。馴染んでみれば、お父さんは楽しい人で会話が豊富。お父さんから見て石尾は真面目で素直な好青年。
「もう遅いから」と言ってズボンも乾いてスーツに着替え、さあ帰る段取りを、となって石尾は突然あることに気がついた。
「俺、車だった……」
「え?」
「え?」
凛子ちゃんとお母さんの素っ頓狂な声。ご両親に気に入られたいばかりに帰りのことなどすっかり頭から飛んでいた石尾。
「どうしよう……」
お父さんからすかさず出た提案。
「泊まっていきなさい! おい、2階に支度してやれ」
「そんな、とんでもないです!」
「じゃ、どうするの!」
「そうよ、どうするの!?」
そこからまるで3人から詰め寄られるように集中砲火を浴びた。
「健ちゃんは酔っ払い運転で凛子を送って行く気か?」
「朝早く出ればいいでしょう!」
「お願い、そうして! 私、お巡りさんに掴まりたくないしまだ死にたくない!」
「ありがとうございます。泊めてください」
彼女の実家に初めてご挨拶に伺って酔っ払って泊めてもらう…… 消え入りたい気分だが、なぜか3人とも機嫌が良くなった。
「なら、もう一度パジャマに着替えなさい」
お父さんにそう言われて、また風呂の脱衣室へ。スーツを片手、ズボンをもう片手で握って居間にもどった。お母さんがは心得たようにスーツをハンガーにつるす。
凛子ちゃんの姿がないが、2階に布団を敷きに行ったとか。ちなみに泊まるのは、凛子ちゃんの真隣の部屋。そしてお父さんお母さんの寝室の真ん前。
時計は9時半を指している。
「朝は何時に出るのかしら?」
「7時に出ようと思います。凛子ちゃんをマンションに送りに行くので」
「そうか、ならもう一杯飲もう!」
「お父さん、飲み過ぎ!」
「そうよ、明日仕事でしょ!」
お母さんと凛子ちゃんに怒られて、お父さんは渋々コップを置いた。
お父さんが改まったように正座する。石尾もすぐに正座した。半分呂律の回っていないお父さんが、石尾の目を真剣に見た。
「健ちゃん。君はいい青年だ。凛子を頼んでいいのか? 幸せにするか?」
石尾は今日、『お付き合いをお許しください』という挨拶をしに来たはずだった。『幸せにするか?』という質問はどういう意味なのか。
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