470人が本棚に入れています
本棚に追加
/257ページ
「終わりました。ご迷惑、おかけしました」
哲平に深々と頭を下げた。涙がぼたぼたと落ちる……
「俺にも見えました…… 自分の本性が。俺は親父っさんから離れるなんて出来ねぇ…… 俺は七生の人生に関わっちゃならなかった。けど…… けど、本当に好きでした…… 七生をお願いします」
「洋一」
後ろから聞こえたのは花の声だった。
「花! まだ起きるな!」
襖を掴んで、青い花が立っていた。その目には怒りは無かった。
「ありがとう。七生は俺たちが支える。いつかまた会おう」
それだけを言って襖を閉めた。その襖の向こうに向かって洋一は呟いた。
「ありがとう、ございます…… ありがとう……」
哲平の手が肩に載った。
「俺は…… いや、もう言うことは無いよ。さ、帰れ」
洋一はもう何も言わず出て行った。
「何があったの聞いていい?」
真理恵には分かった。洋一と七生の関係が。
「ここにいてもらうなら私は事情をちゃんと聞いておきたいの」
「……そうだね。その通りだ」
哲平は真理恵に全てを話した。
「それしか…… 方法は無かったの?」
泣きながら真理恵が聞く。けれど聞きながらもそれしかなかったと思う。この状態で子どもが生まれたとして、子どもを抱えた七生にどんな人生が待っているだろう。
「七生ちゃんのそばにいるから。今日は哲平さんはどうするの?」
「いるよ。七生もだが花も心配だ」
言葉が切れた。
「真理恵。俺たち心地よくてさ、ついここに入り浸ってしまう。花と真理恵の生活って成り立ってないよな。済まん」
「それね。もう花くんと話済んでるの。ちゃんと花くんは私の気持ち分かってくれてる。だから私はもう大丈夫なんだよ」
真理恵は哲平の両頬をむにゅっと掴んで左右に振った。
「哲平さん、好きだよ。花くんを通してね、いろんな人と知り合うことが出来たの。子どもたちにもすこくいい環境になってると思う。だからもう心配要らないよ」
「わぁった、わぁあたあら、で、はだしれ」
真理恵は満足したように七生のところへ向かった。女同士。七生を抱きしめたい。
最初のコメントを投稿しよう!