緊張②

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緊張②

   石尾は5時に起きた。朝の忙しいひととき。浴室など鉢合わせして迷惑をかけたくない。使った後は壁もシャワーで流して一通り見回した。  入る前に用意したバスタオルを使う。着替えるのは部屋に戻ってからでいい。取り敢えずお父さんのものを身につける。そして台所に向かった。  ぎょっとした。お父さんが仁王立ちしている、手には竹刀を持って。 「お前は! ……昨日挨拶に来た石尾という男だったな」  竹刀を下ろしたからほっとして笑顔を向けた。 「はい。泊めていただいてありがとうございました」 「なぜ泊っている」 「え? あの、お父さんが泊れと仰って」 「そんなわけあるかっ、一体君はどういうつもりなんだ! こんないい加減な男が凛子とつき合いたいだと!? 出て行け、今すぐ! ……それ、俺のパジャマじゃないかっ、どうしてお前が着てる!」 「お父さんが貸してくださって」 「お前ごときに『お父さん』などと呼ばれたくないっ」  石尾にはなんとなく分かった。昨日の酒を酌み交わしてからの記憶がすっぽり抜けている。ドラマなんかでよく見るパターンを実際に見るのは初めてだ。そんなことを考えた。  お母さんが急いで階段を下りてくるのが聞こえた。 「お父さんっ、またなの!? 昨日健ちゃんを泊めたのはお父さんですよ! お酒を飲むと毎回こうなる…… もういい加減にしてください! 凛子と健ちゃんの結婚を気持ち良く許したでしょう!」 「ば、ばかな…… そんな大変なことを俺が覚えてないわけが無いっ」  凛子ちゃんも下りて来た。 「お父さん、酷いわ…… こんなのあんまりよ。私、健ちゃんと一緒になる! 反対するなら家を出てく!」 「待って、凛子ちゃん。お母さんも。お父さん、着替えてきます。だからちょっとお時間ください」  2階に上がって身なりをきちんと整える。割と頭の中は冷静だ。ここにいるのは河野組の石尾健だ。  階下に降りて、居間で座っているお父さんの正面に座った。 「座布団を」  お母さんが言うのを断った。石尾はお父さんの目をしっかり見て手を突いた。 「椎名康孝さん。改めてご挨拶させてください。石尾健と言います。椎名さんの中ではちゃんと段取りを踏んでいない私が残っていると思います。ですから聞いていただきたいです。凛子さんとお付き合いする許可をいただきに来ました。どうぞお願いいたします」 「健ちゃん、昨日はお父さんは結婚していいって」 「凛子ちゃん。これが正しいんだと思う。一晩、いい夢を見させていただいた。けど、今日を出発点にしたい。やっぱりまずお付き合いの許可をもらってからだよ」  今はお母さんもきちんと座って石尾の話を聞いていた。 「椎名さん。ご記憶の有る無しはいいんです。それよりちゃんとしたご許可をください」 「もしだめだと言ったらどうする」 「伺います、何度でも。俺…… 失礼しました。私という人間を分かっていただけるまで。だいたい大事なお嬢さんを簡単にいただけると思うこと自体が間違っていたと思います。いい加減に見える男を受け入れないお父さんの姿勢は正しいです。そう思います。私はいい加減な男ではないことを証明する義務がある。1人娘のお嬢さんを幸せにするために」 「……君は真面目な男なんだな」 「はい」 「遠慮のない返事だな」 「自分を否定するために伺ったんじゃありません。自分を認めていただきいから伺ったんです」  
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