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「お父さん、」
お母さんが何か言おうとした。
「今日はいったんお引き取りください。すぐには返事はできない」
「分かりました」
石尾は背を真っ直ぐに伸ばした。にっこり笑う。
「『いったん』、そう言っていただけて嬉しいです!」
凛子ちゃんを見た。涙が落ちかけている。
「お願いがあります。この後私は仕事、お嬢さんは大学に行かなければなりません。お嬢さんを送ってもいいでしょうか?」
「……凛子は電車で行かせる。済まんが1人で帰ってください」
「いやよ! お父さん、酷い、ちゃんと健ちゃんは筋道通そうとしてるじゃない! 送ってもらうのまで止めないで! 私、健ちゃんと一緒に行く!」
これは親子の話だと思うから石尾は黙った。
「お父さん、私からもお願い。それくらい許してあげて」
凛子ちゃんの涙とお母さんの頼み。お父さんは考えて考えて頷いた。
「分かった。石尾くん。君には私こそいい加減に見えていることだろう。今度は酒抜きで話し合おう。私は親としてこの話に時間をかけたい。凛子が真剣なのはよく分かった。君を知りたいと思う。そこから始めるということでいいだろうか?」
「はい。チャンスをいただけて有難いです! ありがとうございます!」
お母さんにも顔を向けた。
「ありがとうございました。ずい分とお騒がせしたのによくしていただいたこと、本当に嬉しかったです! これからもどうぞよろしくお願いします」
「いいえ…… いいえ、本当にごめんなさい。私もお父さんとよく話しますから。こんな失礼なことになってしまってごめんなさい」
「そんなことないです。これがきっと当たり前なんです。時間が無いので今日はこれで失礼します。また伺わせてください」
凛子は急いで荷物を取りに上がった。石尾と一緒に玄関を出る時、口を震わせて涙いっぱいの目で父を見た。
「健ちゃんはちゃんとした人だから。私たちのこと、ちゃんと認めて」
バタンと閉まったドアをお父さんはじっと見ていた。
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