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この時間にケーキはさすがに罪悪感に苛まれる。達生がロウソクを吹き消したあと、ケーキを切り分けながら、沙知絵は思案した。
でも、今夜は最後の晩餐だ。
最後ぐらい一緒に誕生日ケーキを食べてあげないと、達生は成仏できないかもしれない。
少し大きめのケーキを達生の皿に、小さめのケーキを自分の皿に乗せた。
なんの変哲もないイチゴのショートケーキだ。達生は、こういう普通のショートケーキが大好きだった。少しいつもと違うのは、生地にもクリームにもピーナッツオイルを混ぜ込んであることだ。
達生は軽度であるから、はたして今夜症状が出るのかどうかは定かではない。大人なになってからのアレルギーは、小さいころからの積み重ねみたいなものだと何かで読んだ。器があるとして、アレルギー物質をその器にためておける量は人それぞれなのだそうだ。器が小さければ、少しの量であふれ出す。あふれ出せば、症状として身体に表れ、ひどい場合は死に至る。
積み重ねならばと、毎日少しずつ与えてきた。でも、今回の量は今までの比ではない。
賭だった。
地獄から抜け出すためには、この賭に勝たなければいけない。
達生がケーキを一口頬張った。
「うまい! 沙知絵の作るものは全部おいしいよ。このケーキ、めちゃくちゃうまいよ」
こうやって達生に持ち上げられたあとは、特に警戒した。いつ不機嫌になりだすか分からないからだ。
パクパク食べる達生を上目で見ながら、沙知絵も一口頬張った。
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