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達生がケーキを完食して、十五分が経った。それなのに、苦しみ出さない。沙知絵は最後の一口を口に放り込みながら、焦りを感じた。
もうすぐ十一時になる。あと一時間で、誕生日が終わる。
「ねぇ、もう一切れ食べたいな。達生くんも食べよう、つき合ってよ」
焦っていた。だから、こんな無謀な提案をしたのだ。沙知絵のお腹の中には、もう一切れ入る隙間などどこにもなかった。
「俺はいいけど、沙知絵は食べれるの?」
沙知絵の胃の中を見透かされているようで、とてもいやな気持ちになった。焦りのせいだろう、薄墨のようなシミが心に広がり始めた。
「食べれるよ。今持ってくるから、待ってて」
少しクールダウンしようと、グラスに残っていた生ぬるい緑茶を一気に飲み干した。
ピーナッツアレルギーは、そばアレルギーなどと並び重篤になりやすいと、ネットに書いてあった。なぜ、達生は苦しまないのだろう。個人差があるということなのか。
切り分けたケーキを新しい皿に乗せて、沙知絵は達生の前に置いた。
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