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やっぱりおかしい。
どこにも発疹らしきものは見えなければ、痒そうにもしていない。達生にはなんの変化も見られなかった。
沙知絵は無理矢理ケーキを口に押し込みながら、また時刻を確認した。
十一時半を過ぎた。
ピーナッツオイルの量が足りなかったのだろうか。もっとたくさん入れた方が、よかったのだろうか。
ケーキを口に入れて、また時刻を確認する。
あと十分で深夜零時だ。
この計画は失敗だった。
沙知絵の中で、すがっていた何かが折れるような音が聞こえた。
人を殺そうなんて考えることが、間違っていた。反省と同時に、恐怖が蘇った。
達生からは逃げられない。
あと五分。
自分の中で決めていた期限が過ぎる。
絶望的な気持ちで、沙知絵は最後の一口を飲み込んだ。
次なんて、もう考えられない。一生、達生のそばにいなければいけない。死ぬまで、達生を傷つけなければいけない。
達生を傷つける?
傷つけられるのは沙知絵のはずだ。変なことを考えたと思ったそのとき、沙知絵の喉に焼けるような痛みが走った。喉だけじゃない、胃も熱いし、痒くて仕方がない。
沙知絵は喉を掻きむしりながら、椅子から倒れるように落ちた。
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