Happy Brithday

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 痒くて熱くて、その上肺の入り口が腫れたような感じで、呼吸もうまくできなかった。  痒い痒い痒い。苦しい痛い熱い。 「沙知絵!」  ぼやけていく視界に、必死の形相をした達生が映った。達生の唇の横に、さっきまではなかった絆創膏が貼られている。沙知絵を抱えようとする腕には、やはりさっきまではなかった痣が見えた。 「沙知絵!」  思い出した。  昨夜、スマートフォンを投げて達生を怪我させたのは沙知絵だ。アレルギー検査を受けたのも沙知絵で、ピーナッツアレルギーがあるのも沙知絵だ。  暴力を振るうのも暴言を吐くのも沙知絵で、大好きな達生を傷つける沙知絵を、沙知絵は大嫌いだった。  抑えられない衝動は、理性をも上回り、暴力へと沙知絵を駆り立てた。  沙知絵が消え去りたかったのは達生ではない、自分自身だった。  薄れゆく意識の中で、計画は成功した、沙知絵はそう思った。今日初めて、心から笑えたような気がした。  沙知絵が昨夜激高したのは、達生の一言が原因だった。 「カウンセリングを受けてみないか?」  他人の手を借りなければまともになれない、一人じゃ何もできないと言われているようで、沙知絵は怒り狂った。  自殺では達生が後ろ指さされるかもしれない。それならば、新しく見つかったピーナッツアレルギーを利用して、達生の前から永遠にいなくなろう。  そう思い考え抜いた計画を一笑に付されたような気がした。  荒ぶる沙知絵を支えようとする達生に申し訳なかった。こんな自分はいなくなったほうがいいと、ずっと思っていた。
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