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これでやっと死ぬことができた。極楽浄土に行けるわけがない。ここは地獄に決まっている。それでもいい、達生を解放することができた。
沙知絵は穏やかな気分で息を吐き出すと、ゆっくりと目を開けた。
「あ、沙知絵! 看護師さん、沙知絵が沙知絵が」
地獄にしては、沙知絵は変なところにいた。人のたくさんいるところに寝かされ、たくさんの管やコードみたいなものにに繋がれている。ひどい頭痛がしたが、朦朧とした意識の中ではどうすることもできなかった。
医師らしき人がやってきて、沙知絵の何かを見ている。
「旦那さん、奥さんはもう大丈夫ですよ」
ありがとうございますとすすり泣く、達生の声が聞こえた。
沙知絵は、病院にいた。
「旦那さんの処置がよかったからですよ。無理に水を飲ませて胃の中のものを吐かせたのが、功を奏したのでしょう。あと五分遅かったら、助からなかったかもしれない」
達生のために死にたかった。弱い自分から逃げたかった。達生に生かされたこと事実を理解し、沙知絵は目を閉じた。散々寝たであろうに、強い眠気に襲われる。
次に目が覚めたら、達生に言おう。
「ありがとう、愛しています。私をカウンセリングに連れて行ってください」
達生は、今までの仕打ちを許してくれるだろうか。逃げだそうとした自分を許してくれるだろうか。これからも達生を愛することを許してくれるだろうか。
強い眠気は、沙知絵を深いところへとゆっくりと沈ませた。
もう逃げない。正面から自分と向き合い、達生を幸せにする。今は眠ろう。明日のために。
その夜沙知絵は、家族四人でピクニックをする、幸せな夢を見た。
了
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