遥叶は我慢できない

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遥叶は我慢できない

 サイドテーブルには深夜買ってきたと思われる葡萄の缶チューハイが置かれていた。中身を振って確認したが案の定、空っぽ。  無塩アーモンドが数粒残っていたので、遥叶はそれを口の中へ放り込む。コリコリと小気味よい音をたてて咀嚼、そして水を飲むを交互に繰り返す。  ソファにかけてあったタオルケットを掴み、寝ている雨汰に掛けた。 「雨汰、寝相悪すぎ」  太腿あたりからスラリと伸びる色白な足がタオルケットから見えた。細いけれど骨格は男の足だ。女の足のように全体的にふっくらとした丸いラインではなく、スッと一本の太い筋のようなものが通った均整のとれた程よい筋肉がついている。  オーバーサイズのロングTシャツのみの無防備な姿で寝息を立てる雨汰に触りたいと思った。 (俺はひょっとして変態かもしれない……)  夜明け前の、この静かな時間が個人的にとても好きだった。ふいに南側の窓へ目をやると、ピンクや青が入り混じった幻想的なマジックアワーが広がっていた。  煩わしい言葉や音なんかが動き出す前の、非日常的な気分に浸れるこの一瞬が遥叶を大胆にさせる。 「ふ──う……ん」  雨汰の口が少しだけ開いたと思ったら急に寝返りを打つ。お互いの体が向き合うと指先通しが触れ合った。  遥叶は、ひんやりした雨汰の指に自分の指を深く絡めていく。 (やばいってもう、何の拷問だよこれは。  呼吸が浅くなっていつもより興奮する。  こうしていつも触れていたい。  でもこれ以上触れたらどうなる?  きっと我慢できない。  俺は夢で雨汰を押し倒した。   ハルカと呼ぶ雨汰の甘い声が好きだ。  特別感とか優越感もあった。  しかもかなり攻められた。  俺はSであいつはMだろ?  もしかしたら本当はSかもしれない。  攻める雨汰も新鮮だっだけど。  なら俺はもっと攻めてやる。  こっちは好きすぎて狂いそうなのに。  こんな顔して寝てんじゃねーよバカが。  雨汰は俺をどう見てんのかな……。  やっぱ教え子とか兄貴の弟か友達か。  俺も早く卒業して大学生になりてえ。  したら雨汰の全部受け入れたい。  雨汰も俺を求めてほしい。  ……って勝手な俺の理想論に過ぎないけど。  それに俺は完璧な人間じゃない。  フルスペック王子とか言われるのマジで勘弁してほしい。  性欲だって人並み以上にある。  みんなと同じだよ。  特別視しないでほしい。  俺に完璧を求めないでほしい。  けれど外野はそうは思ってはくれない。  俺を追いかけるファンがいるって麦から聞いたことがある。  嬉しい反面、悪質ストーカーには気をつけねーと。  って、ちょっと待った。  俺も人のこと言えないわ。  学校で雨汰を探したり見つけると目で追うとか。  いや違うな、目で犯しているな。  それはれっきとしたストーカーだろう。   ──って思う所も無きにしも非ず。  人のことどうこう言えなかった。  すいませんでした。  ああもっと雨汰を求めたい。  指を絡めるだけなんてもう全然足りないのに……)    
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