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第1話 演劇部に入部してみた。
昭和五十五年四月
水井信仁 九歳(十一月生まれ)
小学四年生 通称「ノブ」
身長は低く、性格は少し大人しめで引っ込み思案
そんなノブの通う青葉市立青葉第六小学校(通称青六)は生徒数の増加に伴い青葉第一小学校から分かれた、まだ創立八年目の新しい小学校である。
この「青六」は四年生から部活に入れるが運動部は五年生からという規則があり、ノブが本来やりたいミニバスケットボールは一年だけ我慢して、以前より少しだけ興味のあった文化部の一つ「演劇部」に入部することにしたのであった。
まず何故ノブがミニバスケットボール部に入りたかったのか......?
別にバスケットボールを小さい頃からやっていたわけでもなく、そんなに試合なども見たこともなく......。でもやるならバスケットボール......
実はノブの父親が中学生の頃、小さい体でありながらバスケットボール部の副キャプテンをやっていた。
小さい体を生かし「ガード」というポジションで活躍していたと小さい時から父親から話を聞かされていたのだ。
そして小さい体でも努力すればバスケットボールで活躍できるんだということを尊敬している父親から聞いていたのでその影響を受け自分もいずれはバスケットボールがやりたいと思う様になったのである。
そういう理由が有り、早くバスケットがやりたいという思いを何とか押し殺し、まず一年間、とりあえず「演劇部」で活動する事にしようと思った訳である。
しかし引っ込み思案の性格のノブが何故演劇部に? と思われるかもしれないがノブは小さい頃から絵を描いたりするのも好きだったので演技というよりも裏方(大道具、小道具作成)希望で入部したのであった。
【入部初日】
長身でスタイルが良くロングヘアーの美人系、六年生の山田部長の挨拶から始まる。
「四年生の皆さん、演劇部にようこそ。部長の六年の山田香織です。どうぞよろしくお願いします。副部長はまだ決まっていないのでこれから話し合って決めようと思っています。一応、今年の副部長は五年生から決めようと思ってるんだけど、もし四年生でもやる気があれば副部長になってもらっても構わないと私は思っていますよ......」
四年生から副部長......
ノブを含めた四年生全員がお互いの顔を見合って心の中で『無理無理、絶対嫌』という吹き出しが見えるような空気になっていた。
その様子を山田部長は少し微笑みながらノブ達の様子を見ている。
ざわついた演劇部の教室が少し落ち着いた時に山田部長が話を始めた。
「皆さん、演劇部の一番大きな行事は秋の文化祭での演劇発表なんだけど、まずその前に七月の七夕祭りにも演劇部は発表する予定なので、これから約三ヶ月それを目標に頑張っていくのでよろしくね。そして顧問の山口先生とも相談したんだけど今年は演劇部全員に脚本を書いてもらって一番良かった作品を演劇にしようと思っているのでみんな頑張ってみて!!」
教室中がどよめいた。
そして彼等から色々な質問や意見が飛び交う。
「四、五年生も脚本を書くんですか!?」
「入部したばかりなのにそんなの無理ですよ!!」
「読まれるのが恥ずかしい」など......
それでも山田部長は部員の意見は気にせず続けて話し出す。
「これは私の考えだけど、今回六年生は演技に集中してもらって、逆に四、五年生に脚本を頑張ってもらおっかなって思っているの。 で、一番良かった脚本を書いてくれた人に『副部長』になってもらうってのはどうかしら!?」
えーっ!!??
更に教室中がざわめいた。
「ぼ...僕が書いた脚本が......。ブツブツ...通ったら...僕が副部長に...ブツブツ......」
ノブの横に座っている同じ四年生男子の田中誠が小さい声でブツブツと言っている。
そしてノブの正面に座っている五年生女子の佐藤恵はみんなに聞こえる様な大きな声でこう言った。
「四年生が書いた脚本が採用なんてされちゃったら......。私、上級生としてちょっと恥ずかしいなぁ......」
佐藤がそう言うと横に座っている同じく五年生男子の福田博は佐藤にむかってこう言い返す。
「別に四年生のが採用されてもいいじゃん。その方が俺は副部長にならなくて済むんだしさ......」
教室の中は彼等二人以外の心の声も聞こえる様な雰囲気になっている。
蚊の鳴くような声、嫌でも聞こえる声などがいたるところで入り混じっていた。
そんな中、ノブの心の中は......
バスケットボールがやりたいけど仕方無く演劇部に入っただけなのに......
そんな本気で演劇なんてするつもりもないのに......
それに俺は文章書くのは得意じゃないから、まぁ適当な話考えて書けばいいかな.....
ノブは心の中でそう思い、スクッと顔を上げた。
すると何故か山田部長と目が合ってしまい、山田部長はノブに対してニコッと微笑んでくれた。
と同時に恥ずかしがり屋のノブは顔を真っ赤にしてまた下を向くのであった。
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