第2話 山田香織部長の笑顔が見たい

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第2話 山田香織部長の笑顔が見たい

 う~ん......  どうしよう......  ノブはめちゃくちゃ悩んでいた。  脚本を書くにあたり手を抜こうかどうしようかを......  当初は手を抜こうと思っていたノブだったが、入部初日に山田部長と目が合ってしまってから考えが変わってしまったのである。  ただ、ノブの頭の中には自分の書く脚本がど素人で全然レベルが低くお話にならないという事は何故か全然無かったようだ。  そしてノブの頭の中は山田部長の微笑みだけが残っていた。  期限は一週間......  実はノブには面白そうなストーリーが一つだけ浮かんでいた。  ただこれを書くとみんなからノブは本気で脚本書いたんだ、副部長になりたいんだと思われるのではないか?   また五年生の先輩からも変な目で見られるのではないか?  あいつは生意気だと思われるのではないか?  マイナスな想像ばかりするノブであったが、でも......  やはり、せっかく面白いストーリーが浮かんだからには真剣に書かなければ山田部長に申し訳ない......  小学四年生にしてはノブはそういった『義理的』な性格も持ち合わせている。  よし!!  こうなったら周りを気にせず自分が一番書きたい脚本を書こう!  そう心に決めノブは真剣に脚本を書き始めた。  まぁ、本音を言えば提出した時の山田部長の笑顔が見たいということではあるのだが......  【一週間後】  各四、五年生が書いてきた脚本を山田部長に提出する。  ノブもドキドキしながら山田部長に脚本を提出した。  その際、山田部長から 「ありがとね」  その言葉だけでノブはとても嬉しい気持ちになっていた。  全員の脚本を受け取った山田は皆ににこう言う。 「今から山口先生と私達六年生でみんなの脚本を読むんだけど、結構時間がかかりそうだから、四、五年の人達は今日はもう帰ってもらっていいよ。今日の部活はこれでおしまいにしましょう」  顧問の山口恵美先生からも 「今日中に一番良い脚本を選ぶので明日楽しみにしておいてね。」  ノブは心の中で 「楽しめるわけないじゃん......」  そう突っ込んでいた。  そしてあくる日。  演劇部の教室内は異様な雰囲気に包まれていた。  特に四、五年生は緊張感が漂っている。  これで七夕祭りに使われる脚本と新副部長が同時に決まる!  ノブは少しお腹が痛くなっていた。 「やばっ...。お腹痛い...。早く発表終わってくれ......」  ノブは昔から緊張するとお腹が痛くなるタイプである。  同級生の田中誠はノブにしか聞こえない小さな声で 「ぼ...僕の脚本が一番かもしれないぞ......。もしかしたら僕が、ふ...副部長に...なるかも......」  五年生男子福田は周りの空気を読む事なく 「誰の脚本が選ばれるのかぁ~? とても楽しみだねぇぇ。もしかしたら四年生の書いた脚本だったりしてぇぇ」  福田はみんなに聞こえるように言っている。  その福田を一瞬睨みつけた五年生女子の佐藤は他の部員達よりも更に顔が硬直した感じで一番緊張感が漂っている。  彼女は人一倍プライドが高いので本当は自ら副部長をやると前年に言えば良かったのだが周りに認められて薦められないと嫌なタイプであり少しややこしい性格の持ち主であった。  残念なことに前年は誰も佐藤に副部長になってもらいたいという声が上がらなかった。なので顧問と山田新部長で話し合い新部員が入部してから決めようとなっていたのである。  周りの他の五年生女子からは 「きっと佐藤さんが選ばれるよ~私全然自信ないし......」 「佐藤さん演技もうまいし、脚本も去年採用はされなかったけどとても良かったし......」  しかし笑顔で聞いている佐藤の心の中は 「じゃぁ、なんで去年の段階であんた達、私を副部長に推さなかったのよ!?」  そう叫んでいるのであった。    ノブと一緒に演劇部に入った高山健一(たかやまけんいち)がノブに耳打ちする。 「俺さ、脚本なんて書いてないよ。白紙で出したんだ。あとで山口先生に怒られたけどさ......」  ノブは高山が脚本を書いていなかった事に驚いた。  実は高山とは一年生から仲良くしていて五年生になったら一緒にバスケ部に入部する約束をしているのである。    なので高山からすれば演劇部はどうでも良いのである。  高山が続いてノブに話しかける。 「ノブは脚本書いたの? 白紙じゃないの?」  ノブは困惑した表情をしながら 「ちゃ...ちゃんと書いたよ......。たまたま面白そうな話が浮かんだからさ......」  高山は一瞬、驚いた表情をしたが、直ぐに冷めた表情になり、ノブに対して「フーン」とだけ答えると視線をノブから間もなく脚本採用者の発表をしようとしてる山田部長の方に変えるのであった。  そしていよいよ発表の時が来た。
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