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第4話 演劇ってこんなに楽しかったんだ
「うーん ここのところはちょっとセリフ変えてみようか」
「ここの場面、面白いわね。私、この場面大好きだわ......」
ノブに対して山田部長はとても楽しそうに話している。
ノブはそのやり取りを本当は緊張しているが半笑いでうなずいている。
演劇ってこんなに楽しかったんだ......
ノブはいつになく部活の時間を楽しんでいる。
但し表情には出さずに。
「水井君、わからないことや、悩んだりしたら私にいつでも言ってよ!」
佐藤次期部長が数日前とは全然違う笑顔でノブと山田部長との間に割り込んできた。
「佐藤さん、背景は五年生に任せているけど大丈夫かな?」
すかさず山田部長が佐藤に問いかける。
「大丈夫です!! 面倒くさがりの福田が意外と絵が上手なので福田に任せてあります。あと堤さんと後藤さんも絵を描くのが好きな子達なので心配ありません!!」
そう佐藤が答えた。
「あなたは何をしているの? 背景班の手伝いをしなくてもいいの?」
山田部長が少し冷ややかな目で佐藤に言った。
「山田部長、私は演技一本なので水井君の書いた脚本に出てくる全ての登場人物の性格などを分析しているところです!! 私、どの役でもやりますよ!! あれ以外は......」
佐藤は自信満々な顔をしながらそう答えた。
「それじゃ佐藤さんには主役のドジな幽霊役をやってもらおうかしら」
山田部長が少しにやりとした表情で言った。
「!!!!」
佐藤は目を大きく開き、まさかの主役だがこの幽霊だけはやりたくないと思っていたので、山田の顔を見ながら何も答えられなくなっている。
そのやり取りをノブは「女子って怖い......」と心の中で思っていた。
佐藤がどう返事しようか悩んでいるのを無視しながら山田部長はノブに質問をした。
「水井君は元々裏方希望だったから絵を描くのも得意なのかな?」
「いや、得意というか好きと言うか幼稚園の頃からよく絵は描いてます」
ノブはちょっと照れ笑いをしながらそう答えた。
「ふーん...そうなんだ。それじゃ脚本の手直しはこれくらいでいいと思うからあとは福田君達の背景画の手伝いしてくれるかな?」
「はい、わかりました」
そう言ってノブは福田のところに応援に行った。
佐藤は相変わらず複雑な表情のまま立ちすくんでいる。
背景班には福田を中心に同じ五年生の女子、小柄でショートカットで少し気の強い堤志保とぽっちゃり系でロングヘアーでのんびり屋さんの後藤恵子そして四年生の男子田中、高山、女子の中肉中背、そこそこ美人の岸本順子、長身で美人系だが性格は男っぽくて実は損をしている残念美人の石田浩美がいる。
「ノブ、大丈夫か? どんどん演劇部副部長ぽくなってるぞ?」
そう高山が小声で話してきた。
「当たり前だろ!! 水井は副部長なんだから!!」
高山の小声を田中が聞き取ってしまい意味もわからず高山に突っ込んだ。
ノブはすかさず高山の耳元に寄り
「大丈夫、大丈夫...。たぶん...だけど......」
と田中の蚊の鳴く声より更に小さい声でそう答えた。
「水井君、ここは何色にしたほうがいいかな?」
高山の対応に慌てていたノブに四年生の岸本が質問してきた。
「えっ? あぁここは夜だから紺色とかがいいんじゃないかな?」
ノブはなんとなく岸本に感謝した。
「じゃぁここは?」
同じ同級生の石田も質問をしてきた。
「ここは黒かなぁ...。うーん...紺色かなぁ......」
「石田さんはどっちがいいと思う?」
「そうだなぁ...。どちらかというと黒かな」
「よし! 黒なら俺に任せておけ! 俺は黒を塗るのが一番得意なんだ!!」
福田が根拠のない自信ありげな表情で言ってきた。
「福田、あんた黒塗りすぎて他の色を消さないでよ!」
五年生女子、堤、後藤が同時に突っ込んだ。
彼らのやり取りの中、高山は一人、みんなとは逆の方を向き小さめの背景に色を塗っていたが、その高山の背後に人影が......
そしてその影はしゃがみ込み、優しい声で話しかけてきた。
「高山君も色を塗るの上手だねぇ」
声の主は山田部長であった。
「えっ!? そ...そんなことないですよ。いやほんと......」
高山はし少し焦った声でそう答えた。
「いえいえ、これだけ塗れたらたいしたものよ。この調子で頑張ってね」
とても優しく綺麗な声で山田部長は高山にそう言った。
そして山田は立ち上がり六年生と山口顧問が集まっている場所に移動しようとした時に高山も思わず立ち上がった。
「やっ...山田部長!!」
思った以上に声が大きかったので山田以上に声を掛けた高山の方がびっくりしていた。
「どうしたの、高山君?」
下を向き数秒間経って高山が口を開いた。
「山田部長は来年もノブを演劇部の副部長にするつもりですか?」
その問いにニコッとしながら山田はこう答えた。
「うーん...そうだねぇ......。来年も水井君には是非副部長になってもらいたいと思うけど五年生になったら運動部にも入れるし最終的には水井君の気持ちに任せるつもりよ」
「そ...そうなんですか......」
高山は少し安堵した表情でそう答えた。
「でも本音を言えば水井君にも高山君にも演劇部に残ってもらいたいとは思ってるわ。それじゃ私、六年生のところに行くから背景頑張ってね」
山田部長はそう言うとクルッと後ろを向き六年生と顧問がいるところに歩き出した。
そしてその二人のやり取りを会話は聞こえていなかったがノブはじっと見つめていた。
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