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第5話 主役決定!!
四年一組
それがノブのいるクラスである。
その教室の片隅でノブはクラスメイトの大石哲也、村瀬秀延、森重裕也、そして高山の五人で雑談をしていた。
「ノブ凄いよなぁぁ。お前演劇部の副部長なんだろ? 四年生で副部長って他の部にはいないよなぁ。俺のところの理科部なんかは部長も副部長も六年だし......」
長身でノブと気が合う村瀬がそう言うと
「でも五年生になったら俺と高山とノブはバスケ部に入るから来年、演劇部を辞めるのは辛いんじゃないの......? 別に俺はノブがそうしたいのなら演劇部のままでもいいけどさ......」
大石が少しニヤリとしながら言う。
その大石の言葉にノブと高山は無言で聞いていた。
「バスケ部は人気あるから部員も多いし、六年生になってもレギュラーになれるかどうかわからないし、俺や村瀬みたいに卓球部に入ったらどう? 卓球部は地味でうちの学校ではあまり人気ないし、すぐにレギュラーになれそうじゃん。ノブも大石も高山も身長高くないんだし......」
色黒で少しぽっちゃりした森重がそう言った。
(昭和の時代は今と違い人気はあるが卓球は根暗な人間がするスポーツという風に言われていた)
さすがにノブは元々あまり気が合わない森重の言葉に反応した。
「何言ってんだ!! やってみないとわからないじゃん!! 背が低くても俺の父さんなんかは昔バスケ部の副部長してたんだぞ!」
ノブの反論に大石や高山も賛同した。しかし森重は更に言い続ける。
「ノブのお父さんの時代はバスケする人も少なかっただろうし田舎の話だろ?」
森重の言葉に、さすがにカチンときたノブは森重に詰め寄ろうとした時、教室の入り口の方からノブを呼ぶ声がした。
「ちょっと水井くーん!」
同じクラスのマドンナ、寿久子の声であった。
「水井くーん、六年の人が水井君に用があるって!」
寿がそう言うとその横には山田部長が微笑みながら立っていた。
ノブはハッと我に返り一目散に山田部長の方へ駆け寄った。
その様子を四人は見ていたが、すぐに高山以外の三人が高山に
「あの美人は誰だ!? もしかして演劇部の人?」
目を大きくしながら大石が言うと
「六年って寿さんが言ってたから、あの人がもしかして演劇部の部長さん?」
長身の村瀬が小声で言い
「俺、理科部辞めて演劇部に入ろうかな......。寿さんよりも美人じゃん!!」
他の者より少しマセている森重が鼻を膨らませながらこう言った。
彼等の質問や意見を高山は呆れた表情をしながら適当に返事をし、廊下で話をしているノブと山田部長の方に目をやっていた。
そして教室の前の廊下では山田がノブにある相談をしていた。
「水井君に相談があるんだけどね、今回のドジな幽霊の配役の事なんだけど......。どうしてもみんな幽霊役はやりたくないって言うのよ。前に佐藤さんに意地悪で幽霊役を薦めたけど次の日にやっぱり幽霊役だけは無理だと泣きそうな顔で言ってきたから、あれは冗談冗談って思わず言っちゃった......」
山田は困り果てた表情でノブにそう話した。
「そ...そうなんですか......」
ノブも自分の書いた脚本のせいでこうなってしまったと今更ながら後悔した表情で答えた。
「水井君の脚本に何も問題はないのよ。内容はとても面白くて私は今からワクワクして楽しみなの」
ノブの少し暗い表情を察知して山田は慌ててそう言った。そして続けて
「で、私は部長だから逆に遠慮して主役をするのは控えようと思ってたんだけど、そうも言ってられない状況だから私が幽霊役をやろうと思ってるんだけど、脚本を書いた水井君に幽霊のイメージが私でも大丈夫なのかを聞きたくて今日は来たの......」
ノブは非常に驚いた。
みんなが嫌がっている幽霊役を山田部長はしっかり主役と認識し、部長である自分が主役をするのを控えていたこと。
そして何より皆が一番嫌がっている顔を白く塗って目の下を黒く塗ったりして幽霊らしくすることに対して何一つ抵抗がないことを......
この人は大人だ......
ノブは心の中でそう思い今まで以上に山田に対し尊敬の念となんとも言い表せない感情が芽生えてきた。
「ね、水井君どうかな? 私が幽霊役をやっても大丈夫かな?」
山田が再度、水井に問いかける。
「そ...そうですね......。だ...大丈夫だと思います。ただ僕のドジな幽霊のイメージは男だったので山田部長大丈夫ですか?」
ノブは山田の視線をそらしながら、そう答えた。
「勿論!!」
山田は大きな声で満面の笑みでノブに言った。
「よし! これで全ての配役が決まったから今日から演技の稽古を本格的にできるわ。水井君も今日から裏方の仕事は他の人に任せて監督兼演出をやってもらうからよろしくお願いね? それじゃまた放課後に会いましょう......」
山田はそうノブに言うと更に満面の笑みで手を振りながら自分の教室に戻って行った。
ノブはサラッと言われた監督兼演出よりも実は自分の考えたドジな幽霊が山田部長とは全然かけ離れていてイメージが違い過ぎることを本人に言えなかったことへの後悔の方が大きかった。
「はぁ......」
ノブは小さくため息をつき隣のクラスの前の廊下で立ち話をしている二組の濱口亮太郎の顔を見た。
そうそう、俺のドジな幽霊のイメージはあいつなんだよ......
顔色が悪くて痩せすぎなくらい痩せていて尚且ついつも目の下に隈ができている......。
全然幽霊メイクの必要の無い、あいつが演劇部だったら良かったのになぁ......
ノブはそう思いながら少しうつむき加減で自分の教室に戻って行った。
それを待ち構えていたように大石、村瀬、森重の三人はノブに山田部長のことを根掘り葉掘り聞いてくるのであった。
「どうした。部長に何か言われたの?」
高山がノブに少し心配そうな顔で小声で聞いてきた。
「いや......、うーん......。もしかしたら『ドジな幽霊』が『綺麗な幽霊』になってしまうかも......」
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