第6話 演劇部員達

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第6話 演劇部員達

「わーっ!! 助けてくれーっ!! 怖いようーっ!!」  教室中に山田部長の声が響き渡る。 「さすが部長だわ!! 凄い演技力よねっ!!」    四年の岸本と石田が惚れ惚れとした表情で呟いている。 「ワン! ワン! ワン!」  教室中に時期部長の佐藤の声が響き渡る。 「佐藤さん最高!! ブッ......」  五年の福田がお腹を押さえながら本当は爆笑したいところだが、それをなんとか必死に我慢しながら佐藤に言った。  福田の声を聞いた佐藤は福田を睨みつけた。  その様子を見ていた他の部員は『ヤバイッ』と思ったのか、全員よそ見をするか自分の仕事をやりだし始める。 「山口先生、山田部長、なんで私が犬役なんですか? 私人間の役が良かったのに......」  少し涙目になりながら佐藤は二人に訴えた。 「だって佐藤さん、山田さんから佐藤さんは主役の幽霊役をやってくれるみたいって聞いていたから、そのあとすぐに他の配役決めてしまったから......」  顧問の山口先生が少し困った表情で答えた。  そして山田部長が冷静な表情で淡々と言い出した。 「ちょっと強面の男性役は六年の天野君、老夫婦役は六年の時田君と高田さん、除霊師役は六年の大浜さん、若い夫婦役は四年生から抜擢の木場君と夏野さん、酔っ払っている若いOL二人組の役は六年の安達さんに轟さん...。あと残っている役は犬と背景の木の役だけだったから......」 「さすがに時期部長に木の役は失礼だと思ったから一番盛り上がる場面の幽霊を追いかける犬の役の方がいいかなって......。プッ......」  最後の方は山田も視線をそらして答えた。そしてノブの方を見て 「ねっ、ノブ監督? 佐藤さん犬の演技とてもうまいよね?」 「えっ!? ...ま...まぁ...、そうですね......」  ノブは山田部長に水井君ではなく『ノブ』と呼ばれた事と佐藤さんのことで無茶ぶりをされた事とで困惑した表情になってしまった。 「佐藤さん、犬でいいじゃないですかぁぁ......。僕なんか裏方の予定だったのに木の役をする予定だった福田さんの弟さんが急遽入院することになって僕が代役になってしまったんですからぁぁ......」  そう両腕を左右に上げたまま、とても嫌そうな顔をしながら高山が後ろの方で言い出した。そして続いて 「もし良かったら僕と代わりません? 僕、木の役より犬役の方がまだマシです。両腕をずっと上げるのはかなりきついですよぉ......」  高山がわざとフォローめいたことを言ってくれたのかは謎だが佐藤の訴えのせいで教室内が異様な空気になりかけていたので高山の言葉が空気を和らげた感じになり演劇部全員が少しホッとした。  また佐藤も高山の言葉で少し冷静になり木の役よりはましかな? と思い出してきたようだ。 「高山君ごめんねぇぇ......。弟の誠は双子なのにさぁ、昔から俺と違って体が弱くてさぁ......。本当は俺が代わりに入院して病院で一日中テレビ観たいのに勉強好きのあいつの方が入院しちゃうなんてねぇ......。ほんっとゴメンねぇ......」  福田が少し申し訳なさそうに高山に言った。 「いずれにしても佐藤さん。時期部長としてはこういう動物の役を経験するのも必要じゃないかしら? 私はそう思うんだけど......」  山田と幼馴染でみんなからは陰の副部長と言われている高田瑞穂(たかだみずほ)がそう言うと 「佐藤さん、私は将来女優になりたくて演劇部に入ってるし劇団にも所属してるけど、どんな役でも全力でやればとても美しく見えるものよ。私は今テレビや本で除霊師の研究中よ!! あなたも本気で犬の研究してみたらどうかしら......?」  同じく山田と幼馴染の大浜がキレのある声でそう言った。 「佐藤さん、僕なんか大道具担当なのに見た目だけで強面の男役になってしまったんだけど......。ぼ...僕そんな怖い性格じゃないしさ......」  見た目と違いとても優しい性格の天野も佐藤に優しく話し出した。  そして高山や六年生の言葉を一つ一つ噛みしめてから佐藤は目を大きくし、こう言った。 「わかりました!! 高山君には悪いけど私、木の役は無理だと思うの。私、犬の役を時期部長として一生懸命頑張ります!! 大浜さんみたいに今日から犬の研究もします!! なので皆さんよろしくお願いします!! 山田部長、ノブ君ゴメンなさいっ!!」  山田部長は笑顔で佐藤の肩を叩き、ノブは佐藤にも『ノブ』と言われて、顔を赤くしながら頭を下げた。  顧問の山口が口を開く。 「さぁ、話がまとまったところで稽古再開よ!! 大道具さんも天野君と高山君が稽古で無理だから小道具担当の望月君中心によろしくね。七夕祭りまであと一ヶ月切ったからみんな気合い入れて頑張りましょう!!」 「はーい」  全員大きな声で返事をし、稽古再開というところで高山が 「先生、部長、す...すみません......。僕、稽古中は腕を上げなくてもいいですか? このままだと僕本番には腕が痛くて上がらないかもです......」 「プッ......」  ノブが高山の訴えに思わず吹き出すと教室中が大爆笑の渦になった。 「そうね。このままだと高山君かわいそうだから大道具で何か腕を支えれるような道具を作りましょうか。 それじゃぁ、望月君よろしくね!!」  山田部長は笑いながらそう答えた。  元小道具担当、現在大道具兼小道具担当、小柄な望月が大きな声で 「えーっ!? また仕事追加かよ~っ!?」  さらに教室中が笑い声でいっぱいになった。  ノブはこの雰囲気がとても心地よく、このままずっと続いてほしい気持ちになっていた。  七夕祭りまであと一ヶ月  もうすぐノブの考えたストーリーが学校中に知れ渡る......
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