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第7話 二人だけの秘密
七月七日 七夕祭り当日
ノブの通っている小学校の一学期最大の行事となっている。
保護者は勿論のこと地域のお年寄りや地方議員さんも招待された中でのお祭りである。
各学年ごとの歌や踊り、そして文化祭と同じくプログラム最後は演劇部による演劇発表で締めくくられることになっている。
体育館の中は全児童や保護者、来賓の方々でひしめき合っていた。
「山口先生、今回の演劇の脚本はうちのクラスの水井が書いたと聞いているんだけど本当なのかい?」
ノブの担任、奥平仁が少し嬉しそうな顔で横に座っている四年二組担任兼演劇部顧問の山口に質問をしていた。
「そうなんですよ、奥平先生!! 今回、水井君の書いた脚本が一番この七夕祭りに合うと判断して全員満場一致で決まりました。とても面白い内容なんです!! まぁ、内容は……とても内容は面白いんですけどねぇ......」
山口は最後に少しトーンダウンした口調で奥平に答えた。
「??」
奥平は山口の言い方が少し気にはなったが、すぐに舞台の方を向き現在合唱中の二年生の歌声をニコニコしながら聞いていた。
その時ノブは四年生席で二年生の合唱を聴いている。
実はノブには二年生の妹がいて現在目の前で小さな口を大きく開けて頑張って歌っているのであった。
「アキ(明恵)頑張ってるなぁ……。俺以上に恥ずかしがりやなのにな……。俺も合唱頑張らないとだなぁ......」
ノブのいる四年生も出し物は合唱であった。
それが終わるとすぐに舞台裏に行き五、六年生の出し物の間に演劇の準備をする手はずになっている。
ノブの席の背後から高山が話してきた。
「あぁ~めっちゃ緊張する!!」
ノブは高山でも木の役をするだけでセリフも無いのに緊張するのかと思っていたが実はそうではなかった。
ノブの妹の後ろで歌っているのは高山の妹であり、妹思いの高山は自分のことのように妹の歌っている姿を見て緊張していたのである。
「うぅ...吐きそうだ...。あいつ、俺と一緒で音痴だから大丈夫かなぁぁ? 口パクでごまかしてくれていいんだけどなぁぁ……。とりあえず何とか頑張ってくれ~っ!!」
ノブはの『妹バカ』の兄のセリフを聞いて少し緊張がほぐれた。
二年生、三年生、そしてノブ達、四年生の出し物が順調に終わりノブや高山達は急いで舞台裏に走って行った。
「続いては五年生による合奏及び合唱です」
司会者がそう言い終わると同時に舞台裏では次の出番を待つ六年生と演劇部が入り乱れていた。
ノブは二階に上がり石田と一緒に照明担当をすることになっていた。
反対側の照明担当は同じ四年生の田中、岸本がやることになっている。
仲良しの石田と岸本はニコニコしながらお互い手を振っている。
逆にノブと田中は緊張して照明の順番を小声で何回も繰り返し言っていた。
「水井君、緊張してるの? 自分が書いた脚本の演劇が遂に発表されるから......」
石田は少し意地悪っぽくノブに言った。
「そ...そんなことないし......」
石田の言う通りではあったが、なんか少し悔しい気持ちになってしまい、ノブは無理してそう答えた。
そしてすぐに石田が話しかける。
「でも大石君達が言ってたんだけど水井君は五年生になったらバスケ部に入るんだよね?」
「!!!!」
あ...あいつら余計なことを......
「石田さん、このことは演劇部の人達には内緒にしててね! ほんとお願いっ!!」
ノブは石田に手を合わせて拝む感じでお願いした。
「別にいいけどさぁ……、でもいずれバレちゃうよ......」
石田はそう言いながら続けて話し出す。
「実はここだけの話だけど私も五年生になったらバスケ部に入るんだ。本当はバレーボールがやりたいんだけど、うちの学校バレー部ないから、とりあえずバスケ部で体力とジャンプ力だけでも身に付けて中学生になったらバレー部に入るんだ……。あっ!? これ絶対内緒にしておいてね!? 特に順子には絶対に言わないでね......」
石田が少し頬を赤くしながら照れくさそうに言った。
「石田さん、身長も高いしバスケでもバレーでもすぐにレギュラーになれるかもね......」
ノブがそう言うとすぐに石田が
「女の子に身長高いってこと言うのは失礼なのよ!!」
少し強い口調で微笑みながらノブに言い返す。
「あっ...ゴ...ゴメン、石田さん……」
ノブが慌てて謝ると
「ウフッ、うそうそ!! 全然気にしてないわよぉぉ。でも私はスポーツは身長は関係ないと思ってるわ。そう思いたいしね……。だから私より背が低い水井君がバスケ部でレギュラーになるかもしれないし、背が高い私がずっと補欠かもしれないし……。だから私は努力次第だと思っているの。あと、この事はしばらく皆には内緒にしておいこうね? それで来年になったらお互いにバスケ頑張ろうね……」
石田は目を細くし笑顔でノブにそう言った。
男っぽい性格で思ったことをズバズバ言うタイプの石田に苦手意識があったノブであったが、こんな可愛らしい一面があるんだぁと少し驚いた。
その二人に対して背後から誰かが声をかけてきた。
「ノブ君、石田さん、お二人仲がとても良いわね......?」
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