2.幻夢の中へ

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「…………え?」  建物や切符と同じ色の一枚布で作られた服を着ている。ほぼ胴だけを隠していて、けむくじゃらの四肢と鋭い爪は剥き出しになっていた。  しかしその顔には、私がこれまでなんとなく抱いていた「賢さ」の印象はなかった。 「あ……あ…………」 「そんなに驚くな。すぐに見慣れる」  代わりに感じたのは、言いようのない「恐怖」。  あまりにも不思議で不気味なその容貌に、ぞくりと鳥肌が立った。 「アナタ、は…………その…………な、に…………?」 「この港の番人だ。『幻夢(げんむ)』の名を持つ港のな」  途切れ途切れの問いかけに、胸が共振で震えるような低音で返す。 「幻夢……ここから船に乗るのよね? どこに向かうの?」  そう聞くとその狼は、眼球のない窪みでこちらを見た。 「船は来るが、お前は乗れない。そもそも、人間は乗ることができない」  そして、ぐいっと顔を近付け、煙でも撒き散らすかのような勢いでフシュルル……と息を吐いた。 「乗せるのはお前の感情や記憶だ。お前が消したい、無くしたいと思うものだ」
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