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強めの風が吹き、私の黒髪をバタバタと靡かせる。海面も波立ち、乗員のいない船が寂しげに揺れた。
「無くしたい……?」
「そうだ。誰かに対する感情や誰かとの記憶のうち、お前の消したいものをこの船に乗せて運ぶ。この港を出れば、折り返すことはない。もう戻って来ない」
「感情や記憶って。そんなもの、どうやって――」
「出来ない、とでも思うか? この世界で?」
世迷言を言うな、とでも言いたげに、奥まで裂けた口をぐにゃりと歪めて笑う。
ああ、そうだ。こんな非現実で塗りたくった世界なら、可能かもしれない。
「ここは、お前達の世界では『夢』と呼んだりする類のものだ。もっとも、現実の1つには変わりないから、ここで起こったことはお前が起きた後の世界にも反映される」
「……なるほどね」
寝床に入った後に、この港にやってきたはず。やっぱり夢は夢で間違いなかった。
でも。でも。
「1つ聞いていい?」
「なんだ?」
「なんで私の夢に来たの? 偶然?」
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