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「行ってきまーす」
「行ってらっしゃい。塾終わる時間に連絡ちょうだいね」
はーいと返事をして、玄関を開ける。
あれはただの夢だったのか。それとも。
どっちかは分からないけど、結局何もなかったんだから、良しとしよう。
校門の手前で、想い人の後ろ姿を見かけた。見るだけで幸せになれる、茶色のショート。
「和桜、おはよ」
振り向いた彼女が、珍しくペコッと一礼する。
「ああ、文葉さん、おはようございます」
声色が違う。表情も、言葉遣いも、何もかもが違う。
まるで、ただの部活の先輩と後輩のような距離感。
「さ、寒くなってきたわね」
「ホントですね、外でマラソン大会の練習とか辛いです。あれ、今日体育あったかな?」
スマホを出そうとした彼女が、ポケットから何かを落とす。
見覚えのある、くすんだ色の、青い切符。
「……ねえ、落としたわよ」
「あ、ありがとうございます」
友好の色のない彼女の目を覗きながら、私は全てを理解した。
ああ。そうか。
あの狼が言ってたな。
「断っても構わない。それならそれで、別の人間のところに行くだけだ」
行ったんだ。この子のもとへ。
そして彼女は消したんだ。私への想いを。
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