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私はいつも頭が足りなくて。公式を覚えたって、赤本を捲ったって、肝心なことはこんな状況にならないと気付けなくて。
彼女はきっと、私を想ってくれてたのに、私は脅えてばかりで、踏み出すことすらできなくて。彼女も私のように苦しんで苦しんで、そして港で流したんだ。
勇気を出せば良かった。私からアプローチすれば良かった。好きって、言ってあげれば良かった。
押し寄せる、後悔と謝罪。
悩ませて、悲しませて、辛い決断をさせて、ごめんね。
和桜、ごめんね。ごめんね。
そして頭を巡る、たった一つの詮無い願い。
和桜が、5分ギリギリまで、消すかどうか迷っていたらいいな。私と同じように、悩んでくれてたらいいな。
「……えっ、どうしたんですか、文葉さん」
涙を零す私の顔を覗き込んだ彼女は、どうしようかと狼狽する。
「ごめんね、大丈夫!」
両手でパンッと頬を叩く。
大丈夫よ、和桜。今度は私が頑張る番。
卒業まで日はないけど、全力で貴女を振り向かせてみせる。
それが想いを流さなかった私にできる、一番の罪滅ぼし。
「ねえ、和桜! 今度の休み、一緒に出掛けない? チケット余っててさ!」
私はとびっきりの笑顔で、彼女が観たがっていた映画のサイトを見せた。
<了>
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