1.運命ってのはどうにも悪趣味で、厄介で

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「ちょっと文葉、どこ行くの、こんな時間に」 「散歩と買い物」  夜、あてもなく外に出た。  家にいたら、あのままモヤモヤを涙に変え続けて、やがて干乾びてしまう。 「さ、む、い、ね」  寂寥感を紛らわせるように呟いた後、イヤホンをから流れる大好きな曲を口ずさむ。  時折自転車とすれ違うけど、小声でなら歌える。半径3メートルは私だけの世界だった。  そして、それでも私の頭は苦悩をやめない。  卒業する前に告白した方が良いだろうか。  そうそう、どうせダメでも大学に行ったら会えなくなるんだ。うまくいけば万々歳、ダメでも逃げればいい、逃げてキャンパスでまたステキな人を見つければいい。こんな良い方法ないじゃないか。  でもそれは和桜に対して失礼じゃないのか。自分が一番傷付かない方法だけを考えるなんて、それは本当に彼女を好きだと言えるのか。  いいんだよ、恋愛は元来、利己的なものなんだから。誰だってイヤなことに正面から向き合いたくないんだ。 「あーもうっ! どうしようかな!」  わざと明るく叫んでみた。夕飯で出たポテトサラダみたいなグチャグチャの心に、がなり声は良く似合う。  何を買うわけでもなく、重い足取りで帰路について、現実から這い出るように眠りについた。
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