1.運命ってのはどうにも悪趣味で、厄介で

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 *** 「そうだ、和桜。映画、この席でいい?」  今日は塾がないので、放課後近くのカフェでマキアートの糖分補給。 「ん、どれですか?」  顔を寄せる白帆。ライチのような華やかな香りが、鼻に遊びに来る。顔が近づくだけで、幸福感にむせ返りそうだった。 「わっ、良い席ですね!」 「じゃあ、チケット買っておくわね」 「やったあ!」  彼女が、パアッと幸福を散らすように笑った。 「ふーさん、いつもありがとうございます!」  ほら。その顔が、その笑顔が、いつも私を縛り付ける。  当たって砕けろで想いを伝えようとするたびに、諦めて別の人を好きになろうとするたびに、光を纏う素敵な表情を見せて、離れることを許してくれない。麻薬のように彼女の虜で、だからこそ一緒にいるのが苦しい。  彼女は私を頼れるお姉さんとして見てくれているかもしれないのに、私はてんで違っていて、色恋の感情を抜いて彼女に接することができない。そのボタンの掛け違いに、心に波を立てる隙間風が吹き込む。 「えへへ、楽しみにしてますね! 楽しみ楽しみ!」  堪らなく嬉しそうに、いつもの鼻歌を奏でる。  もう何度も何度も聞いて、一緒にハモれるくらい。 「うん、私も」  精一杯の笑顔を作って、カップを一口啜る。  蛇腹に折れて水に濡れたストローの袋は、なんだか自分によく似ているような気がした。
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