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「うー、体固まった! 寝よう!」
数学に没頭して、気付いたら23時半。疲れ切った脳のままベッドに飛び込み、イヤホンをつけながら毛布に包まる。
「ふう……」
曖昧に揺れる現実の中で、浮かんだのは彼女の顔。こんなところにまで出てきて、私を惑わせる。
苦しくて、愛おしくて、辛くて。
こんなにナーバスな夜は、いっそ頭を取り替えたいとさえ思う。彼女を知らなかったあの頃に戻りたいとさえ。忘れたいとさえ。
やがて。
「……え? …………え? 何、ここ……」
気が付くと、灰色の空の下で立ち尽くしていた。服装はなぜか、昼間に着ていた白のボタンシャツとネイビーのスカートに戻っている。
人も、車も、鳥も、花もない、風すら吹いていない。
見えるのは、少し遠くに広がる灰色の海と、その手前、目の前に建っている、くすんだ青の三角屋根の建物。
「夢、かな……?」
近づいてみると、その建物はとても不思議で不自然だった。
コンクリートで出来ているようには見えないけど、木材でもない。煤けたように汚れているのに、削れたりひび割れたりしているところはない。絶対に劣化しない建物が時間だけ延々と経ているよう。
中にも誰もいない。切符の販売機が1台あるだけで、受取口から屋根の色と同じ濁った青い何かを吐き出していた。
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