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消えた世界
ハッ、と意識が現実に戻った。
布団を頭まで被っていたから、目の前は暗い。
枕元でアラームがまた、けたたましく鳴り響いている。
遥斗はもぞもぞと布団から顔を出し、身体を起こしつつ、アラームを止めた。
瞬間、部屋に静寂が訪れた。夢の中の町の静寂と重なり、一瞬身震いする。
「はぁ……」
いろんなものを吐き出すように溜息をついた。妙な夢のせいで5分間の休息が逆に疲れを増幅させたような気がする。
割と長い時間、夢の中で歩き回っていたような気がするが、実際にはきっちり5分しか経っていなかった。
遥斗は、手早く身支度を済ませ、リビングへ行った。
しかし、そこには誰もいなかった。
テーブルの上に遥斗のための朝食が置かれているだけである。母親からの多少のお小言を覚悟していた遥斗は拍子抜けした。そして、また夢の光景と重なった。
「いやいやいや……」
遥斗は、妙な想像を追い払うようにわざと声に出して言った。
時々あるのだ、こういう日は。
父親は、昨日のうちから今日は早くから出張に出ると言っていた。たぶん、まだみんなが寝ているうちに静かに出ていったのだろう。
母親は、いつもは昼の時間のパートなのだが、たまに朝番の人が足りないとかで、遥斗より早く家を出る日があった。
そういう時は、前の日に聞かされるはずなのだが……ちゃんと聞いていなかったか、母親が言い忘れていたかどちらかだろうと、遥斗は自分を納得させた。
先ほどの脅しの意味も理解した。母親ももう出かけてしまうから、寝過ごしても誰も起こさないぞという意味だったのだろう。
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