第十六夜  手招き

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第十六夜  手招き

これは、私の会社の先輩から聞いたお話です。 先輩のアパートは3階建てで、その前には5階建てのアパートがありました。 先輩の部屋のカーテンを開けると、前のアパートのベランダ側が見えました。 ある日、すっかり仕事が終わるのが遅くなり、帰宅したのが11時ごろだったそうです。 部屋に入り、電気を付けて朝開けっ放しにしていたカーテンを閉じようと窓際に立ちました。 ふと何気に前のアパートを見てちょっと見回したそうです。 すると、4階の一番端の部屋がうっすらと明かりがあり、カーテンのレース越しに人影の様なものが見えたそうです。 「ん?なんだろう?」 そう思い、ずっとその影を見つめていました。 するとぼんやりと影が動いて、なんとなく手招きをしている様な感じだったそうです。 「女性かな?誘ってんのかな?」 なんて心の中で思いつつも、少し気味が悪い様な感じでもあったのでカーテンを閉めたそうです。 夕飯とお風呂を済ませて寝ようとした時、ふと影が気になりそっとカーテンを開けました。 しかし明かりが消えていてわからなかったそうです。 特に気にすることなく、先輩は布団に入りました。 その日先輩は夢を見たそうです。 (夢の話) 薄暗い商店街に一人で立っていて、突然女性の悲鳴が聞こえたそうです。 悲鳴の元へ恐る恐る歩いていくと、そこには誰もいなく、突然商店街の電気がチカチカと点滅し始めたそうです。 怖くなり商店街を抜けようと歩いていくと、遠い前の方に人影が見えました。 女性の様ですが、体全体にモヤがかかった様な状態で顔は見えなかったそうです。 その女性は少しずつ近づいて来ていました。 先輩は逆の方向へ歩き始め、度々後ろを振り返ると、その人影はいつまでも付いてくるそうです。 急ごうと思って走ってはいるんですが、現実の世界の様に早く走れず焦り始めました。 もうすぐ出口で、なんとなく助かったと思ったそうですが、耳元で囁かれる様に、 「タ・・・スケ・・テ・・ヨ」 そこで先輩は目を覚ましたそうです。 時間は朝の5時半で、かなりの汗をかいていたそうです。 恐怖で眠気が飛んでしまい、先輩はその時間から仕事に行く時間まで起きていたそうです。 それから仕事に行き、朝の事もすっかり忘れ家に帰りました。 すると前のアパートにパトカーが並んでおり、警察の人や野次馬がたくさんいました。 何か事件かと思いましが、特に気にする事なく部屋に入りました。 しかし、ふと先輩は思ったそうです。 昨日見た影は実は夢の中で追いかけて来た女の人だったのではないか? その女性は幽霊となって手招きをしていたんじゃないかだろうか? そしてその女性は、夢の中まで自分に助けを求めに来たんじゃないかと。 翌日以降も特にその事件についてのニュースはありませんでしたが、その部屋で女性が亡くなった事は近所の噂から耳にしたそうです。 終わり。
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