あめや

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 神主だったおじいちゃんが私に不思議な言葉を残してくれた。 「人の喜ぶ顔を見るのが好きなお前はあめやの才がある! お前はあめやをやるんだぞ」  あめや?  おじいちゃんの言葉に従って、私は飴細工屋で修行して、飴屋を始めた。  花や動物といった具現物から万華鏡のような模様物まで、甘くて美しく、幸せを配る飴を売る飴屋を。  お客さんのお話しを聞きながらイメージして飴を作れば、喜びに綻ぶ顔が見られる。  そっか、おじいちゃん、これだね!  その日の最後のお客さんは小さな女の子だった。手に、萎れた植物が植った鉢植え。 「いらっしゃいませ」 「あめやさん?」 「はい。どんな飴を作りましょう?」 「雨を降らせてください!」 「?」  〝雨〟違いだよ、と言おうとして、ちょっと待って。  おじいちゃんは、龍神様を祀る神社の神主だった。  雨? まさか。  この街は土地柄雨が少ない。下手すると夏の間、殆ど降らない。  おじいちゃん、まさか。  外に出て空に手をかざし、念じた。  雨よ、雨。 「雨だ! お姉さん、やっぱり〝あめや〟さんだ! ありがとう!」  少女の満面の笑みを見た時、おじいちゃんの言葉の意味を全て知った。  私は暖簾を変える。  飴屋から〝あめや〟へ。  あめや、始めました。
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