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生前のリュウジはサンフランシスコでコンピューターの通信技術の研究所に勤めていた。
コンピューターの無線通信技術と言えばスマホの3Gだの4Gだのといったあれだ。
しかしリュウジの研究は量子力学を応用したまったく仕組みの異なるものであった。その技術を使えば遠く離れたコンピューター同士をまるで同一のものであるかのように扱うことができる。
光の速度は1秒間に地球を7周半できるというが、逆にいえば地球の裏側までいくのに66ミリ秒かかってしまう。これは昨今のコンピューターの処理速度からみると大した速さでもないのだ。
一方リュウジの研究では遠くのコンピューターが目の前に現れるようなことが起こる。つまり時間の遅れがゼロということだ。これは世界を一変させる可能性を秘めた技術なのであった。
ノーベル賞授賞、歴史の教科書に載るほどの偉人、リュウジの将来は輝かしいものとなるハズだった。
しかし、ある日彼がコンピューターの接続方法についての画期的なアイデアを思いついてしまったことで、リュウジの人生のレールは薄暗い方へと切り替わってしまった。
リュウジが閃いた独自の方法を使えば、任意の地点間の量子接続を確立することが可能になる。要は世界中のどこにあるコンピューターであってもリュウジの目の前に出現させることができるのだ。
この技術を使えば核兵器をコントロールするコンピューターを勝手にいじってしまうことさえできてしまう。まさに究極のハッキング技術と言えるものだったのだ。
「あのときああしておけば、みたいな話は、、、
うーん、特にないなあ」
リュウジは閉じていた目を開いてふざけたように声をあげた。
「あ! そうだ。
あの時もうちょっと見た目に気を使えばよかったな。
もうヒゲも伸び放題だったし」
呆れた解答に目を丸くするレベッカ。こんな男死ねばいいのに、と思うようなことはこれまで何度かあった。目の前にいるのが既に死者であるとわかっていても、だ。
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