その男の子の忠告と私の時間

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「ごめん、加奈。ありがと」 満員の講義室で一番目立たない後ろの扉からゆっくりと部屋に入ると、いつも通り、加奈の隣に滑り込む。 決まって朝早く講義室にいる彼女は、毎回この扉の近くの席を取ってくれていた。 お陰で私は、いつも余裕の表情で講義を受けることができる。 「また寝坊?」 眉頭を歪ませて出席票を差し出す加奈が、小声で言った。 別に小声にしなくても、周りは好き勝手に過ごしているので正直そんな配慮は必要ない。 私の親友は真面目なのだ。そこが加奈の良いところであり、悪いところでもある。 「いや、ちゃんと起きたのは起きたんだよ?」 「それを寝坊っていうのよ」 「違うってば」 差し出された出席票を受け取りながら、私は全力で否定した。 寝坊ってのは、予定してた時間に起きられなかったことを言うのに、いつだって加奈は私のことを寝坊扱いする。 「あ、そんなことよりさ」 と、コツコツと人差し指で机を鳴らす加奈に、さっきゲットしたばかりの情報を伝えようと触れる。 「なに?」 相変わらず眉頭の形は変わっていない。顔はまあまあ私好みなのに、加奈は表情を作るのが下手なのだ。 「ほら見て。これ、加奈好きでしょ?」 撮った写真を加奈に向ける。さっきは気づかなかったけれど、少しだけぶれていたせいで、予約用の連絡先がぼやけていた。 「……好きだけど」 ぼそりと呟く加奈の表情が少しだけ和らぐ。 「じゃあ、一緒に行こうよ。私予約しておくからさ」 「え、アカネが?」 「うん、まかせて。ほら、いつも出席票確保してくれてるし。お礼ってことで」 「ありがと……」 加奈の頬が少しだけ紅くなったのを確認して、良いことをした気分になる。 「……予約するなら、その隣のポスターのも見ておいたら?」 「え?」 指された小憎たらしい男の子のポスターは、連絡先がはっきりと写っていた。
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