その男の子の忠告と私の時間

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『ごめん、5分遅れそう』 講義室についているはずの加奈に、『ごめん』と入力すると続いて勝手に予測変換される文字をそのまま使って送る。 いつも通り返事は来ないけれど、既読はついた。 これでひとまず出席票は確保できるはずだと、駆け足だった速度を緩め、ゆっくりと呼吸を落ち着ける。 あの講義は出席が評価の6割を占めるというのだから、出席票だけでも確保しておかないと成績が危うい。 でも、親友の加奈のお陰で無事に前期の授業は、最低でも【可】の評価は確保できそうだ。 加奈も返事くらいくれたらいいのにと、虚しい2文字ぽっちの相手の反応を眺める。 最初の頃は『気を付けてね』くらい来たものだったのに。さすがに出会って半年も経てば、仲も深くなってきたってことだろう。 会話をしなくても、相手の気持ちがわかる間柄というか――。 腕をぐっと前に伸ばして明るい空を見上げながら、講義室へ向かうための通路を進む。 通路に張られた掲示物の中に、ふと、今まで気づかなかったポスターが貼られていたことに気がついた。 「どうしても時間が守れない人必見……?」 講義の開始は8時50分。腕の時計を見ると8時55分を指している。 なんとなく自分のことを言われている気がして、いけすかない小学生くらいの男の子が書かれたポスターにデコピンした。 別に守れてないわけじゃないし。 そのまま視線を横にずらすと、加奈の好きなアーティストが近くにライブに来るという告知ポスターが目に入る。 つっかえ棒がかかった気持ちをかき消すように、その告知ポスターを写真に収めた。
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