はじまりのチャーシュー麺

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「ねえ、京子さん。死ぬのやめなよ」  とさっきと同じことを言う。 「馬鹿らしいよ、死ぬの。私も昔、死のうと思ったけど、いろいろあってやめた。生きてても死んでても同じだもの」 「そう、ですかね?」 「そうだよ」  そう頷いた彼女は、視線をさ迷わせて、結局テレビを見た。坂本がホームランを打ったのが、なにかの救いみたいにじっと見つめる。 「もしよかったらさ、ここで働かない?」 「え?」  私はチャーシューを唇で咥えたまま顔を上げた。 「ちょ、調理師免許とか、ないですよ」 「いらないよ。衛生管理者の資格はおじいちゃんが持ってたけど、急に死んじゃったから、今のところ免除」 「そういうもんですか?」 「うん。調理師免許は私が持ってるから、あとはまあ、手伝いとして働く分には問題ない」 「でも、私、なにもできません。なにもできないから、すぐにクビになったというか」 「今時、仕事ができないだけでクビにされるの?」 「いえ、ごめんなさい嘘つきました。トンずらしてそのまま辞めました。一週間で辞めました」 「あはは、すげえ。負け犬」  さらりとひどいことを言ったが、その言葉は今の私に爽やかに沁み込んだ。たぶん、誰かにそう言ってもらいたかったのだと思う。この七年間、ずっと。 「じゃあさ、おいでよ。こっち側に」 「あ、でも、私その、家を追い出されてて」 「いいよ。うちに住みなよ」  なんてアクティブな二十代だろう。令和に生きてるな、この人。 「おじいちゃんの布団とかそのままになってるし」 「……考えさせてください」 「いいよ。チャーシュー麺食べ終わるまでね」  そのとき、ミエちゃんはにっかりと笑った。素敵な笑顔だった。私の人生で、そんなふうに笑ってくれた人はほとんどいなかったから、戸惑った。
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