2人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「ねえ、京子さん。死ぬのやめなよ」
とさっきと同じことを言う。
「馬鹿らしいよ、死ぬの。私も昔、死のうと思ったけど、いろいろあってやめた。生きてても死んでても同じだもの」
「そう、ですかね?」
「そうだよ」
そう頷いた彼女は、視線をさ迷わせて、結局テレビを見た。坂本がホームランを打ったのが、なにかの救いみたいにじっと見つめる。
「もしよかったらさ、ここで働かない?」
「え?」
私はチャーシューを唇で咥えたまま顔を上げた。
「ちょ、調理師免許とか、ないですよ」
「いらないよ。衛生管理者の資格はおじいちゃんが持ってたけど、急に死んじゃったから、今のところ免除」
「そういうもんですか?」
「うん。調理師免許は私が持ってるから、あとはまあ、手伝いとして働く分には問題ない」
「でも、私、なにもできません。なにもできないから、すぐにクビになったというか」
「今時、仕事ができないだけでクビにされるの?」
「いえ、ごめんなさい嘘つきました。トンずらしてそのまま辞めました。一週間で辞めました」
「あはは、すげえ。負け犬」
さらりとひどいことを言ったが、その言葉は今の私に爽やかに沁み込んだ。たぶん、誰かにそう言ってもらいたかったのだと思う。この七年間、ずっと。
「じゃあさ、おいでよ。こっち側に」
「あ、でも、私その、家を追い出されてて」
「いいよ。うちに住みなよ」
なんてアクティブな二十代だろう。令和に生きてるな、この人。
「おじいちゃんの布団とかそのままになってるし」
「……考えさせてください」
「いいよ。チャーシュー麺食べ終わるまでね」
そのとき、ミエちゃんはにっかりと笑った。素敵な笑顔だった。私の人生で、そんなふうに笑ってくれた人はほとんどいなかったから、戸惑った。
最初のコメントを投稿しよう!