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僕は恋をしている。
相手は床屋の彼女。
美人で、話し上手で、彼女の周りには常に良い香りが漂っている。とても素敵な女性だ。
一回二千円と少し値は張るが、彼女の顔が見たくてつい通ってしまう。そして、毎回彼女に髪を切ってもらうのだ。
今日もそうだ。
髪が少し伸びたので早速やってきた。
けど、床屋の中でしか彼女と接点の無い僕は、切られていく自分の髪を見ていつも寂しい思いをしている。
あぁ、もうすぐ二人の時間が終わってしまうのだな。と
だから今日は勇気を出してワガママを言ってみることにした。もう少し、あとほんの五分だけ、お喋りしませんか、と。
タイミングは、彼女が次に口を開いた時。いつものように「終わりましたよ」と、蜜月の閉幕を告げるその瞬間に言ってやるのだ。
それから数分後、狙い通り彼女が口を開いた。さぁ、言うぞ。
「前髪はどうしましょう」
「あと五分だけ!」
こうして、僕の前髪はいつもより少しだけ短くなったのだった。
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