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エミコをうちに招いてから2週間が経った。
そろそろかな、とパソコンのフォルダからエミコのパスワードを探し出す。
以前、TwitterやFacebookでバズったこともあるアプリ連携系の診断メーカー。エミコも例に漏れずアクセスしていたので、その際、データを根こそぎ吸い出していたのだ。
ツイッターにアクセスして、削除済みのアカウントにパスワードを打ち込む。『アカウントを復活させますか?』の問に『はい』を選択。
よほど堪えたのだろう。エミコのアカウントは、削除されたあとに復活させた様子はなかった。
「フォロワー、最終的に11万いってたのか」
先頭に『皆さんへ』から始まる最後の挨拶があった。その日付が2週間前。
わたしは、迷うことなくそのアカウントをとあるサイトに貼り付ける。
会員制RMTサイト。
一定数のフォロワーや知名度を誇るアカウントしか取り扱わないアカウント売買専用サイトだ。
最低価格は100万円~。
わたしがこのクソみたいな茶番に付き合ったのは、何を隠そうここでエミコのアカウントを売るためだった。
エミコほどの有名人ならば、500万円はくだらないだろう。
馬鹿の騒動に付き合うだけで、その金額と思えば、まぁ悪くはない。
同じ要領で、Instagram(こちらはフォロワー数8万7325人)のアカウントも貼り付ける。
「しめて、1000万円くらいには化ける? やったー! 彼氏誘って寿司いこーーーっと!」
誰かが以前『SNSは免許制にした方がいいと思う』と言っていた。全面同意だ。
自分を見失って、立ち位置もわからなくなって、右往左往の末に分かりやすいものに飛びついて、最終的に行き過ぎる人間のなんと多いことか。しかも救いようのないことに、彼ら彼女らは揃って反省しない。それどころか、どこまでも自分が被害者だと信じきっている。
全面同意だが、そんな身の程知らずのおかげで、こういう商売が成り立つので、実際に免許制が導入されても困るのだが。
この商売をはじめて、一年半が経過するが、だんだん『のちに良い金になる』SNSアカウントも分かってきた。
全員例に漏れず、声がでかい。主語がでかい。話題にはとりあえず乗る。自分の頭で考えているように見えてその実考えていない――。おっと、これ以上は企業秘密。商売上がったりになっちゃうからね。
SNSって本当に怖い。
これが逆の立場だったら、とはいつも想像して寒気がする。
まぁ、でも。それでも、
「やっぱ、やめられないんだよねぇ」
呟いて背伸びをすると、わたしは『ハト』とは別のアカウントで、Twitterを開いた。
【了】
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