5分後に、来る

5/9

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「もう、やめましょうよ。こんな茶番」  わたしが口を開いていた。壁にかかった時計を見つめながら。 「あと5分なのでしょう? 本題に入ってくださいよ。それとも、わたしを呼んでおいて今更やめにしようとか、言わないですよね? わたしも暇じゃないんですよ?」 「……」  全員が黙り込む。  ももまりはピンクに色付いた唇が、青ざめているように見えるし、カフ虫太郎に至っては、今にも泣き出しそうに顔を歪めている。  唯一、hinakiだけが眉をひそめてこそいるが、真っ直ぐに前を向いていた。  軽く息を吐き、畳み掛ける。 「集合時間、エミコさんだけ1時間も遅いのは、わたしを含めた4人で『私刑の方法』を話し合いたかったからでしょう?  hinakiさんはたぶん、あれですよね。ブログ記事の盗作の件。実際揉めてましたもんね、かなり」  自分の名前が呼ばれたhinakiが、肩をびくりと震わせる。 「ももまりちゃんは、言わずもがな。あの大炎上した件でしょう? いつものように友達の記事に擁護コメントを書いただけなのに、いつの間にか火元が自分にすり替えられていて、実はももまりが言い出したという風にされていたやつ。あれは、怒って当然だと思いますよ。あれによって、あなたもたくさんの誹謗中傷を受けてましたもんね。脅迫の手紙が来たという話も、聞きましたし」  今度はももまりが顔を強ばらせる。カメラ越しに映る困惑したその目を見ながら、含み笑いをした。 「虫太郎さんは……実はよくわかっていないんですよね。虫太郎さんはなぜ、エミコに『私刑』を求めるんですか?」  最後に、カフ虫太郎へと水を向けると、彼女は一度俯いてから勢いよく顔をあげた。  先ほど、ももまりに迫られた時よりずっと赤い顔をしている。怒り。わたしは高揚のあまり声が漏れそうになるが、舌を軽く噛むことでなんとか堪えた。 「あの、実はあの人の裏アカ見つけてしまって……そこで、わたしの書評のこと、ボロっカスに書かれていたのが、ほんとにムカついて。本なんて、全然読まない人に、あんな……」  ようやく水を飲む者が現れた。  それも、渇きを湿すように勢いよく飲んでくれている。上々だ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加