5分後に、来る

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「しけい? 死刑ってこと……? あなたに、そんな権利ないでしょう?」  強がってみてはいるが、声は震えている。  これが蚊なら、容赦なく叩き潰しているところだ。わたしは首をゆっくりと横に振った。 「死刑ではなく、私刑。わたくしの刑と書いて、私刑ですよ。権利なんて誰にでもなくて、誰にでもあります」  エミコが高速で目を(しばたた)いた。 「わたくしの、けい……? どういうこと? 個人ってこと?」 「そうです。法的な罰ではなくて、わたしという『私刑執行役』が、あなたに個人的に罰を与えます。今回の場合は、hinakiさん、ももまりさん、カフ虫太郎さんの3人に加えてあなたの旦那さんも被害者なので、ひとり頭300万円として、計1200万円の損害賠償を求めようと思っています」 「いっ……?!」  エミコの声がうわずった。わたしは強く頷き、肯定を示す。  エミコが激しく首を左右にした。 「いっ、1000万なんて、そんな大金! 払えるわけないでしょ!! 馬鹿にしないでよ!」  鼻息荒く瞳の端を滲ませたエミコが、わたしを懇願するように見つめてくる。  よし、かかった。  心の中で呟き、わたしはうっすらと微笑んだ。  旦那の後ろ盾を失った一介の専業主婦に、そんな大金が払える訳がないのは、百も承知だ。まず、実家が太いのかどうか、旦那が金を持ってるのかどうかも怪しいところだろう(お灸を据えてほしいと言ってくる時点で、かなりきな臭い)  罪名も金額もすべて、ブラフ。  少し冷静になれば分かることだが、特殊な状況に加えて、次々に明かされる衝撃の事実の露呈、罰、損害賠償という物騒な単語、極めつけは、途方もないほどの大金の提示――。  思考回路なんてうまく働いてくれやしない。  わたしはエミコに『悪魔の囁き』を施した。
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