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「しけい? 死刑ってこと……? あなたに、そんな権利ないでしょう?」
強がってみてはいるが、声は震えている。
これが蚊なら、容赦なく叩き潰しているところだ。わたしは首をゆっくりと横に振った。
「死刑ではなく、私刑。わたくしの刑と書いて、私刑ですよ。権利なんて誰にでもなくて、誰にでもあります」
エミコが高速で目を瞬いた。
「わたくしの、けい……? どういうこと? 個人ってこと?」
「そうです。法的な罰ではなくて、わたしという『私刑執行役』が、あなたに個人的に罰を与えます。今回の場合は、hinakiさん、ももまりさん、カフ虫太郎さんの3人に加えてあなたの旦那さんも被害者なので、ひとり頭300万円として、計1200万円の損害賠償を求めようと思っています」
「いっ……?!」
エミコの声がうわずった。わたしは強く頷き、肯定を示す。
エミコが激しく首を左右にした。
「いっ、1000万なんて、そんな大金! 払えるわけないでしょ!! 馬鹿にしないでよ!」
鼻息荒く瞳の端を滲ませたエミコが、わたしを懇願するように見つめてくる。
よし、かかった。
心の中で呟き、わたしはうっすらと微笑んだ。
旦那の後ろ盾を失った一介の専業主婦に、そんな大金が払える訳がないのは、百も承知だ。まず、実家が太いのかどうか、旦那が金を持ってるのかどうかも怪しいところだろう(お灸を据えてほしいと言ってくる時点で、かなりきな臭い)
罪名も金額もすべて、ブラフ。
少し冷静になれば分かることだが、特殊な状況に加えて、次々に明かされる衝撃の事実の露呈、罰、損害賠償という物騒な単語、極めつけは、途方もないほどの大金の提示――。
思考回路なんてうまく働いてくれやしない。
わたしはエミコに『悪魔の囁き』を施した。
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