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「消しませんか? もう、全部」
「え」
こくり、と一度唾を呑むのが分かった。そんなエミコを瞬きひとつせず、じっと見つめ続ける。
「それって、どういう……」
口に出しながら、目を見開いた。どうやら気づいたらしい。わたしは無言で頷く。
「もう、お気づきですよね。Twitter、Instagram……、と。LINE、Facebookは連絡手段だしほぼリアルで構成されてるでしょうから良しとしましょうか。それらすべてのアカウントを削除して、SNS上の繋がりを『なかったこと』にすればいいんですよ」
エミコの顔が目に見えて動揺に染まる。
「そんな……インスタもツイッターも、フォロワー10万人まで、大変だったのに……ぜんぶ、順調だったのに……」
声がどんどん小さくなっていく。
わたしは「逆に考えてはどうですか」一際明るい声を出した。
エミコが怪訝そうに首を捻る。
「一度はそれだけの人の支持を集めることが出来たんですから。またイチからはじめてもきっとあなたなら出来ますよ。だから、ね。恨みを買っているアカウントは捨ててしまって、名前も変えて新しくやり直しましょうよ。この機会に。アカウント変更をして転生なんて、ごまんといますよ。そこから盛り返している人も」
わたしの言葉を聞く目が、とろんとしてきている。一種の催眠だよな、と自分でも思いながらダメ押しのひとことを吐き出した。
「それとも、払います? 1200万円」
エミコの瞳がまた一瞬大きく開いた。そしてそのまま項垂れると、力なく頭を振る。
「いえ、消します。ぜんぶ。幸い、そのうちの誰ともリアルでは繋がってないし。消して終わるなら、その方がいいです。もう、なんで……こんな……わたしが……あぁ、面倒くさい……」
面倒くさい、ときたか。すべて自分が撒いた種が発芽しただけだというのに、この種の人間は本当に懲りない。転生後も絶対チェックしよう。
思いながらわたしは、肩をぽんと叩いた。
「では、それでいきましょう。先方には『アカウント削除及び二度と各々に近づかないことを約束させた』とでも言っておきます。旦那さんには、ご自身で誠心誠意謝っておいてください。
因みに被害者である三人の証言も、証拠のツイートや記事も、すべて記録として残してはいるので。今度こそ何かあれば法的な手段も有りうることをお忘れなく。変な気を起こそうとは思わないで、転生後はくれぐれもその点、気をつけてSNSライフをお楽しみくださいね」
エミコは憔悴しきった様子で、わたしの言葉に涙を流した。
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