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「ねぇ、提案があるのだけど」
腕時計に目を落としていた『hinaki』が、ヌードカラーの唇を開いた。
美容に関するツイートで有名になった彼女は、ゆるく巻かれた肩口までのマロンブラウンの髪に、キャットアイのラインが好印象だ。
女子会、それも初対面同士とだけあって、同性受けメイクを施してきたのだろう。普段SNS上で見る異性受けメイクをした彼女とは別人のようで、そこもまた興味を掻き立てられる。
それに、この距離でもシミシワひとつない鉄壁の肌は、本当に何度見ても飽きなかった。
「提案、ですかぁ?」
小首を傾げているのは、『ももまり』こと百川麻里奈だ。彼女もまたインフルエンサーと呼ぶに相応しいフォロワー数を誇る。くりくりのアーモンドアイはかわいらしいラメ入りピンクがベースで、唇はぽっと花が咲いたかのような艶のあるピンク。
元アイドルらしく、豊かな胸の膨らみを彩るように、 胸元に大きなフリルが付いている白いブラウスがよく似合っている。
特に、カシスオレンジの入ったグラスをかき混ぜる指先の覗くキャンディースリーブは、何度見てもたまらない。
「そ、それは、どのようなものでしょうか……っ?」
どもりながらもなんとか口を開いたのは、読書アカウントで絶大な人気を誇る『カフ虫太郎』だ。
アカの由来は、カフカ→変身→虫→自分→本好き→本の虫、で、カフカと本の虫をくっつけたものだと以前本人が書いていた。太郎の部分は知らない。相互歴の長いわたしも知らないので、誰も言及していないのだろう。
度の強そうなメガネの奥にある目は小さくて、申し訳程度に引かれたアイラインは失礼ながらガタガタだし、唇は赤すぎる。胸元には慣れないのだろうネックレスがぶらさがっているが、左の鎖骨あたりに留め具が回ってきていることには、未だに気づいていないようだ。
わたしはさすがに、見るのがもう何回目かもわからないので、だんだんツボに入ってきているのだけれど。
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