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あれから数日後、俺は社長室へと呼び出された。
「今回の件、どう責任を取ってくれるんだ?」
凄む社長の威圧感に、ただただ謝るしかなかった。
時間通りにデザインを出せなかったことで、コンペは敗北。会社は案件を逃しただけでなく、投じた費用も水の泡になった。
降格は避けられない……いや、最悪の場合、クビの可能性だって――処分に怯えながら謝罪を続けていると、社長の様子が急変した。
「まぁ、コンペには負けてしまったが、そんなことより安心する出来事があってなぁ」社長の表情は緩み、声色も丸くなった。
「実は――ウチの娘が、我が社のビルの屋上でちょっとした事件を起こしてしまってなぁ。もうちょっとで命を落とすところだったんだが、ある二人の男性のおかげで命が救われたそうだ。どこの誰だかわからないが、彼らには感謝しかないよ」すっかり父親の表情になった社長は、朗らかに笑う。
おいおい、勇敢な男性二人のうち、ひとりはこの俺だぜ。この俺なんだぜ。でも、この場で「僕が娘さんを助けました!」なんて主張しても、信じてもらえるどころか、頭がおかしいと思われるに違いない。
俺が助けたことを証明できるのは、あの男しかいない。なんとしても男を探し出し、社長に証言してもらわなければ。娘さんを救ったのが俺だとわかれば、今回の失態だって帳消しになるはずだ。どんな手を使ってでもヤツを探さねば――。
証人探しの意気込みに肩透かしを食わせるように、男は自ら俺の前に姿を現した。それも、意外な方法で。
ヤツはテレビの中にいた。探し求めていた姿がそこにあり、思わず呆気にとられる。それと同時に、ヤツを社長室につれていき、俺の勇姿を証明するプランは完全に消滅した。
あの日の男の言葉が蘇り、俺はすべてを理解した。
『ずっとずっと目を離さず見守ってきたのに、僕としたことが……』
報道番組の中、ストーカー容疑で逮捕される男。社長令嬢に悪質なストーカーを続けたことで逮捕されたようだ。しかも、度重なるストーカー行為に悩まされ、彼女はあの日、自殺を図ったらしい。
携帯が着信を告げる。ディスプレイには上司の名前。
「もしもし――」
予想通りの結末。それが俺の降格を告げる電話だったことは、もはや言うまでもない。
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