第14章 永遠の別れ

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指の先端が肋骨のあいだへ喰いこんだ。 勢いで数センチのめり込む。 筋肉がショックで縮んで、腕が進まない。 鮮血が舞うよりも先にその臭いが鼻を刺激したがそれよりも先に、手に伝わってきた、人の温かな肉を切り裂く感触は物凄く恐ろしいものだった。 ──自分は今、人を殺してしまった。 腕をゆっくりと引き抜けば、瞳に色を移してないMrが倒れ込んできて、俺はそのまま地面に座る。 しばらくMrを見つめながらボオッとしていた。 どうしていいのかよくわからなくて。 体のずうっと奥のほうにある心臓の鼓動がコトッコトッと鈍い音をたてるのが聞こえてきて、手足がいやに重く感じて、口が凄くかさかさとして。 「好きな人からトドメを食らうとは・・・・・・シュウは可哀想ですねぇ、なんとも悲しい人生でした」 その言葉が雷になって脳天につきささって、頭の電源が落ちて、自分の手元が見えなくなった。 瞬間──隣に見覚えのある悪魔が降り立った。 「クロ、大丈夫か?」 呆然として、もう何も言えなかった。 目に映るものが全て巨大なポスターに印刷された写真のように厚みをなくした。音も消え、臭いも分からない。 気がつくと、俺はふらふらとした頼りない足取りで、ゆっくりと歩きだしていた。 「クロ、どこに行くんだ」というマルコの声が耳に確かに入っているのに、頭には届かない。 「クロ、少し待て」掴まれた腕の感覚がない。 体の重みが伝わらない。地面を踏みしめる感触がない。 ビデオの映像を早送りするように光景が目まぐるしく変わっていく。 最初のうちは遠くのほうから俺を呼んでいマルコの声が聞こえていたが、やがてそれも遠くにになっていって、消えた。  血が吹き出ていたのだ。 目の前にはベリアルが居た。 俺は彼のその白い服の中心に大きな穴を開けたがスロー再生される映像を見るような感覚だった。 怒りとも、憎悪とも、ものがなしさともつかない鈍い痛みのようなものが胸の奥底にわだかまる。 「ガハッ・・・・・・!?」 信じられないと言いたげに瞳をユラユラと揺らしながら地面に倒れ込んだベリアルを仰向けにして俺は、ただただ、その整った顔を殴り付けた。 ──耐え難い絶望と怒りに身を任せて。
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