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扉の先に居たのは俺に酒を飲ませた悪魔だった。
彼は申し訳なさそうに顔を伏せている。
その姿が飼っていたゴールデンレトリバーと少し重なって、俺はその頭を撫でてながら笑った。
「わざとじゃない事は分かってるし、大丈夫だ」
俺が話しかけると、彼はハッと顔を上げた。
そして嬉しそうな悲しそうな顔をしながら、骨が折れるんじゃないかと思うほど抱き締めてきた。
「これからは酒じゃなくトマトジュースにするから安心してくれ!そしたら一緒にのむぞ!!」
「ああ、それなら一緒に飲めるな」
彼は、少しだけ安堵したような顔をした後、俺に礼を言うと去って行ってしまった。
「・・・・・・」
俺はその去り際をじっと見つめていた。
何だ。今の。俺への好意が籠っている視線。
──俺を、俺の事を好きだと思ってる視線。
ああ、その気持ちは嬉しいんだが、でも一体なんなんだろうか・・・・・・この不思議な感覚。
心の奥から得体の知れない何かが疼き続けている。
そして、俺を縛り付けて離さない。
これは何なのだろうか。俺にはこの感覚のことがなんなのか分からない、知りたくもない。
──ただ、俺はあいつらに好意を向けてもらえて本当に満足だ。そしてそれと共に、不安になる。
『誰が貴方みたいな人殺し・・・・・・いや悪魔なんかと好き好んでいると思ってるのよ。馬鹿なの?』
また、嫌われるんじゃないか。
また、騙されてるんじゃないか。
──やめろ。そうじゃない。これは違う、こんな過去の事をずっと根に持ち考えるなんてダメだ。
──過去など意味は無い、俺はもうとっくの昔に通り過ぎた過去の事なんて考えずに──
「クロ君!私にもハグしてくださいよ〜!!」
俺が思考の海に沈む最中、突然声が掛けられた。
「もうキスまでした仲なのに、ハグはしてくれてはいないでしょう?一回だけで良いですから!!」
「嫌だ、断る。言い方が紛らわしい」
そう言いながら近付いてくる身体を押し返してやれば「ケチッ!」なんて言葉が返ってくる。
全く、子供なのか、こいつは?
呆れているはずなのに、何だか胸の奥がポカポカした気分になった。
「じゃあ、キスだけでも!」
なのに、雰囲気を壊すようにま急接近されて俺は遠慮なく押し返す。Mr.は拗ねたような言動をしているのに、どこか楽しそうな声色をしていて、俺もつられて楽しくなった。
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