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「クロくん?寝てるんですか?」
聞き覚えのある声が聞こえてくる。
それと同時に心臓が早鐘を打つのが分かり、落ち着く為に大きく心の中で深呼吸をした。
・・・・・・というか、なんで俺はわざわば寝たフリをしているんだ?普通に会えば良いだろ?
いやいや、相手は悪魔殺しの犯人かもしれないのに昨日のように「近付くな、変態」だなんて遠慮もなく言えるわけがない。
そんな事を考えているうちに足音は近付いてきて傍で止まった。
「クロくん、起きてくださいよ」
その声色は昨日のおちゃらけた声とは少し違ってどこか悲しそうな声色をしているように感じた。
なにより、声が、震えている。
「・・・・・・もう、貴方を、失いたくない」
──昨日までは気付かなかった。
ヘンテコとしかいえない見た目と、ふざけた言動のせいで気付く事が出来なかった。
が、
俺はその声に、確かに聞き覚えがある。
そして俺はあの時だと確信した。
そうだ、俺が不良達にボコボコに殴られて、死にかけていた時、この声が頭の中に響いてきた。
『さぁ、選んで。貴方は奇数と偶数・・・・・・二つのうちのどちらに己の運命を預けますか?』
変な質問だと思いながらも俺は奇数を選んだ。
理由はない。なんとなく、だな。
そして俺はその不思議な声に運命を委ねることにしたんだった。それで死んで地獄にきたんだ。
「・・・・・・優しい貴方を貶す者は例え神であろうとも天使であろうとも絶対に許しませんから」
背筋が凍るほどの殺気だった。
──でも、それでも。
俺の頬を撫でる手は優しくて、まるで宝物に触れているかの手付きで思わずボーッとしていれば、
「良い夢を見てくださいね、my honey」
誰がハニーだ!!!
そんなツッコミが頭の中でぐるぐる、回り続けて、でも、そんなツッコミすらできないほどにMr.の声は真剣で、俺はどう受け取れば良いのか困った。
こいつ、俺の事好きなのか?いや、確かにスキンシップは多いが、なんか、違うんだよな。
えっ、でも意外と本気で俺が好きだったり?
だとしたら断ろう。俺は普通に美人が好き、いや女はあまり良い思い出がないから苦手だったな。
「大好きですよ、クロくん」
──それは、まるで別れを惜しむように、それでいて、別れを告げるように、俺を優しく見つめてからMr.は、そのまま──気配を消していった。
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